[PG-1-1] 作業療法士の病棟配置が入院患者の退院時ADL能力に及ぼす影響
傾向スコアマッチングを用いた後ろ向きコホート研究
【序論】原疾患によらない入院中のADL低下は入院関連機能障害と呼ばれ,急性入院した65歳以上の患者の約30%に発生する.本邦では2014年から入院患者のADLを維持・向上させることを目的にADL維持向上等体制加算(ADL加算)が新設された.この枠組みでは,リハビリテーション専門職を病棟配置し,ADLの評価や指導などを行うことが算定要件となっている.ADL加算に関する先行研究では,入院患者の在院日数短縮やADL向上,在宅復帰率向上などについて相反する報告が存在する.入院患者のADLには病前の生活状況や認知機能といった背景因子も大きく影響すると考えられるが,先行研究では背景因子の統制が全く行われていなかったり,性別や年齢といった限定的な因子でしか統制されていなかった.
【目的】本研究の目的は,作業療法士(OT)が病棟配置されることで,入院患者のADLの維持・向上や自宅退院の促進,在院日数の短縮,褥瘡や転倒を経験する患者が減少するか否かを,傾向スコアマッチングを用いてバイアスの影響を軽減した上で明らかにすることだった.
【方法】本研究は院内の倫理審査委員会の承認を得て,人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針を遵守して行った.研究対象は消化器外科病棟に入院し,生存退院した患者とし,OTの病棟配置が開始された後に入退院した患者を介入群,それ以前に入退院した患者を対照群に割付けた.データ収集では,電子診療録からDPC記録,リハビリテーション記録,手術記録などを収集した.そして,年齢や性別,入院前の生活場所などの背景因子に基づいて傾向スコアマッチングを行い,介入群と対照群で合計1512例がマッチした.主要評価項目は,DPC記録のADLスコアが入院時から退院時にかけて低下した患者の割合とした.副次的評価項目は,自宅退院した患者の割合,在院日数,転倒・褥瘡が発生した患者の割合,疾患別リハビリテーション(疾患別リハ)実施単位数とした.量的変数はマンホイットニーのU検定,カテゴリ変数はカイ2乗検定を行い,有意水準はp<0.05とし,介入群と対照群の群間比較を行った.
【結果】退院時のADLスコアが低下した患者の割合は,介入群が2.24%,対照群が3.83%で,群間の差は1.59%だった.統計量はp=0.07,φ=0.05だった.自宅退院した患者の割合は,介入群が88.4%,対照群が84.1%で,群間の差は4.3%だった.統計量はp=0.01,φ=0.06だった.疾患別リハ実施単位数の中央値は介入群,対照群ともに0単位だった.四分位範囲も介入群,対照群ともに0-0だった.統計量はp<0.01,r=0.13だった.在院日数の中央値は介入群,対照群ともに5日だった.四分位範囲は介入群が3-8,対照群が3-9だった.統計量はp=0.32,r=0.02だった.褥瘡が生じた患者の割合は,介入群が0.13%,対照群が0.39%で,群間の差は0.26%だった.統計量はp=0.62,φ=0.01だった.転倒が生じた患者の割合は介入群,対照群ともに1.45%だった.統計量はp=1.0,φ=0だった.
【考察】介入群と対照群において,退院時のADLスコアが低下した患者の割合に差がないという帰無仮説は棄却できず,効果量はφ=0.05と極めて小さかった.しかし,自宅退院した患者の割合は介入群の方が4.3%高く,統計学的有意差があった.効果量はφ=0.06と極めて小さかったが,介入群は対照群と比べて50人につき2人多く自宅退院させることができたという点では,臨床的に意義のある差と考えられた.また,疾患別リハ実施単位数は介入群で統計学的有意に減少しており,r=0.13と小さな効果量を認めた.つまり,OTの病棟配置は,疾患別リハの実施単位数を削減しつつも,ADLの低下や褥瘡,転倒を経験する患者の割合は増加させずに,自宅退院する患者の割合を増加させることに寄与する可能性がある.
【目的】本研究の目的は,作業療法士(OT)が病棟配置されることで,入院患者のADLの維持・向上や自宅退院の促進,在院日数の短縮,褥瘡や転倒を経験する患者が減少するか否かを,傾向スコアマッチングを用いてバイアスの影響を軽減した上で明らかにすることだった.
【方法】本研究は院内の倫理審査委員会の承認を得て,人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針を遵守して行った.研究対象は消化器外科病棟に入院し,生存退院した患者とし,OTの病棟配置が開始された後に入退院した患者を介入群,それ以前に入退院した患者を対照群に割付けた.データ収集では,電子診療録からDPC記録,リハビリテーション記録,手術記録などを収集した.そして,年齢や性別,入院前の生活場所などの背景因子に基づいて傾向スコアマッチングを行い,介入群と対照群で合計1512例がマッチした.主要評価項目は,DPC記録のADLスコアが入院時から退院時にかけて低下した患者の割合とした.副次的評価項目は,自宅退院した患者の割合,在院日数,転倒・褥瘡が発生した患者の割合,疾患別リハビリテーション(疾患別リハ)実施単位数とした.量的変数はマンホイットニーのU検定,カテゴリ変数はカイ2乗検定を行い,有意水準はp<0.05とし,介入群と対照群の群間比較を行った.
【結果】退院時のADLスコアが低下した患者の割合は,介入群が2.24%,対照群が3.83%で,群間の差は1.59%だった.統計量はp=0.07,φ=0.05だった.自宅退院した患者の割合は,介入群が88.4%,対照群が84.1%で,群間の差は4.3%だった.統計量はp=0.01,φ=0.06だった.疾患別リハ実施単位数の中央値は介入群,対照群ともに0単位だった.四分位範囲も介入群,対照群ともに0-0だった.統計量はp<0.01,r=0.13だった.在院日数の中央値は介入群,対照群ともに5日だった.四分位範囲は介入群が3-8,対照群が3-9だった.統計量はp=0.32,r=0.02だった.褥瘡が生じた患者の割合は,介入群が0.13%,対照群が0.39%で,群間の差は0.26%だった.統計量はp=0.62,φ=0.01だった.転倒が生じた患者の割合は介入群,対照群ともに1.45%だった.統計量はp=1.0,φ=0だった.
【考察】介入群と対照群において,退院時のADLスコアが低下した患者の割合に差がないという帰無仮説は棄却できず,効果量はφ=0.05と極めて小さかった.しかし,自宅退院した患者の割合は介入群の方が4.3%高く,統計学的有意差があった.効果量はφ=0.06と極めて小さかったが,介入群は対照群と比べて50人につき2人多く自宅退院させることができたという点では,臨床的に意義のある差と考えられた.また,疾患別リハ実施単位数は介入群で統計学的有意に減少しており,r=0.13と小さな効果量を認めた.つまり,OTの病棟配置は,疾患別リハの実施単位数を削減しつつも,ADLの低下や褥瘡,転倒を経験する患者の割合は増加させずに,自宅退院する患者の割合を増加させることに寄与する可能性がある.