第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

内科疾患

[PG-1] ポスター:内科疾患 1 

2024年11月9日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (大ホール)

[PG-1-2] 長期ICU在室中に作業活動を取り入れ,QOL向上に繋げた一症例

渡邉 大貴1, 駒場 一貴1,2, 吉田 俊裕1, 千賀 亜季子1, 加藤 洋志1 (1.昭和大学藤が丘病院 リハビリテーション室, 2.昭和大学 保健医療学部リハビリテーション学科作業療法専攻)

【緒言】ICUで管理された重症患者の多くに,退院後も深刻な身体的・精神的障害が残り,機能的予後やQOLを悪化させることが報告されている.(Ali NA,2008)本症例は肝臓がん手術後に心不全発症し,人工呼吸器管理となり,ICU在室が長期化した.症例に対して介入初期から作業活動を導入し,ICUでのストレス軽減やQOL向上のため介入し,自宅退院に繋がったため報告する.なお,本報告に際し,症例には十分に説明し,同意を得た.
【症例紹介】80歳代男性.妻と同居し,要支援1であった.診断名は転移性肝腫瘍で拡大外側区域切除(腸瘻造設)を施行.手術日をX日とし, X+2日に心不全発症し,人工呼吸器管理となり,X+5日に気管切開となった.X+12日,活動性向上のため作業療法開始となった.
【初回評価】意識レベルはE4VTM6/GCSであり,コミュニケーションは理解良好であったが,人工呼吸器管理中のために発話困難なため筆談を利用した.認知機能はMMSE:29/30点,基本動作は中等度〜全介助を要した.ADLはFIM:45/126点,精神心理面はHADSで不安12点,うつ4点,QOLはEORTC QLQC-30を使用し,運動機能6.7点,趣味・仕事16.7点,健康度41.7点であった.症例は多趣味であり,散歩・ゴルフ・日曜大工をしており,歩くことや趣味のゴルフをまたやりたいと希望していた.
【介入経過】〈ICU在室時X〜40日〉 ICUの時期から作業活動を導入し,家族・他職種の連携を通して活動性向上に努めた.認知機能は保たれていたため,せん妄・認知機能低下予防としてカレンダーで日付の確認を毎回行い,介入3日後から画用紙を使用した作業活動を実施した.また,家族へのプレゼントとして作品を作成するなど,症例と目的を共有しながら作業療法を実施したが,ICU在室が長期化し,ストレスが溜まってきているような様子であった.ここで,症例の好きな作業(パターゴルフ)を導入すると,症例からは達成感のある表情や「こんなことをここの環境でできるなんて思わなかった」と発言があった.〈一般病棟転棟後X+41~80日〉X+45日に人工呼吸器離脱となり,まずは病棟ADLで必要となるトイレ動作を重点的に実施し,病棟看護師と連携しながら反復して練習を行なった.また,自宅に退院した後のことを考え,しゃがみ動作などの応用練習も実施した.X+63日にスピーチカニューレ導入となり,口頭での表出が可能となった.入院が長期化していたため,症例の好きな作業であるゴルフは一般病棟へ行っても毎日行い,退院日が決まった際には,「ゴルフを毎日できたおかげで頑張ってこれた」との発言が聞かれた.
【最終評価】 認知機能はMMSE30/30点と低下せず経過することができた.基本動作は病棟内自立であり,ADLはFIMで122/126点,精神心理面はHADS:不安4点,うつ5点と,不安は大幅に軽減された.QOLはEORTC QLQC-30:運動機能66.7点,趣味・仕事66.7点,健康度66.7点となった. x+80日,訪問介護を導入するなどサービス調整し,自宅退院となった.
【考察】近年,ICUにおける早期リハビリテーションが注目されている.本症例に対して,ICU入室時から早期の作業療法を展開することは,身体機能のみならず,せん妄の発症を予防し,認知機能を維持し,加えて精神心理面,更にはQOLの改善へも効果を認めた.ICUでの作業療法は認知機能や精神心理機能,更にはQOLの改善に有効であることが示唆された.