第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

内科疾患

[PG-3] ポスター:内科疾患 3

2024年11月10日(日) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PG-3-4] 血友病診療においてのリハビリテーションの役割

難渋した重度血友病性関節症の一症例を踏まえて

山中 貴弘1, 祖川 稔史1, 越智 海斗1, 山之内 純2 (1.道後温泉病院 リハビリテーション科, 2.愛媛大学医学部附属病院  輸血・細胞治療部)

【はじめに】
 血友病とは,血液凝固因子の欠乏や機能不全により,主に関節内で出血を繰り返す疾患である.また,その結果起こる血友病性関節症は,関節の機能障害や生活障害を招く要因となる.近年,血液凝固製剤の進歩で止血管理が可能となり,リハビリテーション(以下リハビリ)が必要な血友病患者に積極的な介入が可能となり,血友病ガイドライン2020においても血友病性関節症に対するリハビリが推奨されている.そのため,当院では2022年より血友病診療専門病院との診療連携を開始し,血友病チームによるリハビリを実施している.しかし,中等・重度血友病性関節症患者においては,生活障害や関節の過負荷による易出血や関節症の進行が危惧され,難渋する症例も多い.今回,リハビリにて重度の血友病性関節症患者の機能障害改善に伴う生活活動が向上したことで,危惧された関節内出血が出現した.しかし,適時適切に対応することで再出血の予防が図れたため,血友病診療連携においてのリハビリの役割について報告する.尚,症例に対して説明を行い,同意を得た.
【症例紹介】
 症例は,外来通院継続中の50歳代男性の血友病A重症患者.仕事は事務職,主訴は長距離歩行,10分以上の立位保持が困難なことであった.肩関節,膝関節,足関節は重度の関節症で,エミシズマブの定期補充療法を実施しているが,年に1,2回程度,右足関節内出血があった.
【初期評価】
 右足関節背屈-30°,底屈0°,右膝関節に動揺性あり,膝伸展筋力(μ Tas)は右1.3kgf,左21.5kgf.立位姿勢は,骨盤前傾し体幹伸展させ,10分以上の立位保持が困難,歩行速度は10m歩行8.69秒,500m以上の歩行は困難で,立位機能低下は仕事にも支障を来していた.以上のことから,足関節の可動域制限,下肢筋力低下により体幹の代償による異常姿勢を来たし,長時間の立位保持が困難であると考え,リハビリの方針は下肢機能の改善を図り,自主練習指導を随時行うこととした.また,足関節の機能改善により,炎症や関節内出血が出現する可能性が危惧されたため,その説明と前駆症状出現時の対応方法を症例に説明した.
【経過】
 月に1度の外来リハビリを実施.自主練習は継続出来ており,右足関節の可動域が背屈-15°へ拡大し,歩容や活動量が改善した.しかし,その後2週間で2度の右足関節内出血が出現した.炎症も混在しており,足関節への負担軽減と再出血の予防を目的に,インソールの作製や足関節の固定,生活指導を実施した.今後も足関節の再出血の可能性は高く,原因を血友病チームで検討した結果,足関節の機能改善により歩容や活動量が改善したことで足関節への過負荷が影響していると考えられた.そのため,足関節の機能改善でなく,下肢,体幹筋力向上など他部位の機能改善を図り,生活指導で足関節の負担を軽減するよう方針を転換し介入した結果,以降の足関節の出血は見られていない.また,その内容を当院の主治医と血友病診療連携病院と情報を共有した.
【考察】
 血友病性関節症の関節拘縮に対して,ガイドラインでもその機能改善がリハビリの目的であると言われている.しかし,本症例においては足関節の機能改善が,関節内出血の要因の1つと考えられた.その危惧された関節内出血に対して,当該関節とその他関節や歩行や生活動作との関係性を多角的な視点で評価及び介入し,医師と連携して情報共有を図ることで再出血を予防出来たと考える.そのような機能改善や生活指導は,リハビリが止血管理や関節症の進行予防に寄与でき,血友病診療連携においてのリハビリの役割であると言える.