第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-1] ポスター:精神障害 1

2024年11月9日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PH-1-5] リワークにおけるアルコール依存症に向けた認知行動療法の取り組み

井上 辰洋, 槌田 広子, 中園 純子, 松藤 裕子, 安木 達彦 (社会医療法人芳和会 菊陽病院)

【はじめに】
アルコール依存症(以下AL症)者は再発率が高い傾向にあり,復職後の職場適応例も全国的に45%程度と低い(廣,2002)が,AL症者に対しリワークプログラムを実施している医療機関は少ないのが現状である.当院ではこうした状況を踏まえ,デイケアリワークプログラム開設当初よりAL症者を対象とした認知行動療法(以下CBT)を実施している.今回,AL症治療目的にて当院に入院し,退院後リワークに繋がったAL症者に対し,再発防止や生きづらさに着目してCBTを実施したので,症例を通して効果を報告する.なお,本研究は,研究倫理に配慮し,発表に際して本人の同意を得ている.
【対象】
40歳前半の男性,AL症,適応障害と不眠症を合併.高校卒業後に就職を始めた頃より飲酒が習慣化.X−10年,うつ病を発症し他院で入院治療を行う.X年5月,飲酒運転により退職.同月に当院入院しアルコールリハビリテーションプログラム(以下ARP)に3ヶ月間参加.退院時には断酒の意向を示し,X年9月,復職目的のためにデイケアリワークプログラムを開始.
【方法】
再飲酒の有無等を含む生活状況を振り返った後に,アルコール・薬物依存症の再発予防ワークブック(Terence,2018)を元に作成した再発防止プログラムを実施.X年9~11月に計6回,1回に2時間,個別または小集団で介入.看護師1名とOT2名で担当.再発後の対処方法について重点的に考える内容で,全8セッションで構成.症例はうつ病の既往があり,劣等感や自己肯定感の低さが飲酒行動に繋がる要因であった為,抑うつ程度の指標として日本版BDI−Ⅱを介入前後に行った.
【経過】
1ヶ月目:日本版BDI−Ⅱは15点.アルコール学習とCBTの週2回から利用を開始.入院時のARP担当者がCBTでも継続的に関わった.劣等感や自己肯定感の低さに対しては,正直に語ることを促し,自身について気付きが深められるフィードバックを振り返りの中で行った.毎週末に再飲酒を繰り返していたが,休みなく通い続け,入院時に語られなかった家族関係の悩みを話すようになった.また,「再飲酒の前から再発は起きているんですね」と,再発のプロセスについて理解を示すことが出来た.
2ヶ月目:週3回の利用を開始.再発への理解を深め,ジョギングや釣り等の再発予防の取り組みを実践.職業能力開発促進センターへの受験を機に不安感が強くなり,週に2回再飲酒を行うも,参加を継続.繰り返し認知の修正を行い,再発時の対処方法の考えをまとめてもらい,実践を促した.
3ヶ月目:週5回の利用を開始.自己内省傾向に変化はないが,次第に自身の思考の癖を認識し,ストレス増加の再発兆候について気付くようになった.また,自ら抗酒剤を希望し,悩みについても積極的に相談出来るようになった.その後,職業能力開発促進センターに入校し,リワークデイケアを終了.この期間の再飲酒はなく,日本版BDI−Ⅱは正常域の5点に改善.
【考察】
本症例は,再発プログラムに取り組むことにより,再発サインであるストレスへの気付きが深まり,抑うつ傾向の改善と共に再飲酒の頻度が減少した.AL症者の飲酒欲求の背景には生きづらさが存在していると言われており(成瀬.2021),症例も自己内省傾向等の生きづらさを抱えていた.そのような生きづらさに対して正直に語ることを促し,認知の修正を行ったことが,復職に向けた前向きな行動に繋がったと考える.今回の症例を通し,再発率の高いAL症者にとって,アルコール専門の治療の場となるリワークのCBTプログラムを提供する意義は大きいと思われる.