[PH-1-6] 回復期リハビリテーション病棟で行ううつ病患者へのメンタルケア
【序論】回復期リハビリテーション病棟の作業療法では,身体機能や活動への介入が中心となる.しかし,現在の日本では老年期のうつ病が増加しており,筆者が所属する病院でも同様の傾向にある.これらの問題は,患者のQuality of lifeを低下させるだけでなく,リハビリテーションを行ううえで障害となることもあるため,適切に評価し対応することが重要である(岡村,2012).筆者が調べた範囲では,回復期リハビリテーション病棟で精神面の改善を目標に作業療法を実施した報告は少なかった.今回,うつ病を呈した左大腿骨頸部骨折の患者に対してメンタルケアを実施し,良好な結果が得られた症例について以下に報告する.尚,当発表は当院の承認と対象者への同意を得ている.
【症例紹介】左大腿骨頸部骨折を呈し回復期リハビリテーション病棟に入院した70代男性.X-1年前よりうつ病の既往がある.元々は自宅で妻と自立した生活を送っていたが,X-2年前より徐々に口数が減り,自宅に引きこもるようになった.X-1年前,うつ病の診断で精神科に入院し治療を行っていた.しかし,入院中に転倒し左大腿骨頸部骨折の診断を受け回復期リハビリテーション病棟に入院となった.うつ病の服薬調整は行っていたが変化は見られなかった.入院時の主訴は何もしたくない,性格特性としては真面目で心配性である.
【作業療法評価】入院時,運動FIM19点,認知FIM10点,MMSE19点であった.できるADLは見守りレベルと推察されたが,実際のしているADLでは促しがなければ行動できない,促しても途中で手が止まる,すぐに介助を求めるといった自発性低下や介助依存があり,FIM全体が低い結果となった.また,表情は常に硬く眉間に皺が寄っており,クローズドクエスチョンには反応するが思考力を伴うオープンクエスチョンには返答がなかった.疲労感を理由に訓練拒否も多く臥床傾向にあり,離床を促すと相手を罵るような発言も見られた.病棟での他者交流は一切ないなど社会性低下が認められた.
【介入方法】うつ病の改善に向けてメンタルケアを行った.ケアの内容として,生活リズムを改善するために本人と相談しながらスケジュール表を作成し,他職種への理解とスケジュール表の周知を行った.心身機能の向上に合わせ本人とスケジュールを見直し,より本人に合った実用的なものに変更していった.訓練内容としては,機械トレーニングを中心とした有酸素運動をルーティンで行い,その他にリラクゼーション,日光浴,革細工を体調の変化に応じて1日1~3時間,約2.5カ月間継続して行った.
【結果】約1カ月で訓練拒否はなくなった.退院時,運動FIM40点,認知FIM15点,MMSE27点まで改善が見られた.一部動作では介助に依存する場面があったが,基本的には自発的に動くことが増え,全体的に介助量が減少した.コミュニケーション面では,訓練中に自らプライベートな話題を口にするようになる,相手を気遣う関わりが増えるなど良い変化があり,時折笑顔も見られるようになった.
【考察】高齢者の認知機能評価をする上でうつ状態の人やうつ病の人は低得点を示すことが多い(加藤,2023)と報告されており,入院時のMMSEの点数の低さはうつ病による思考力の低下が大きな妨げになっていたと考えられる.そのため,今回身体機能だけでなくメンタルケアも実施したことで,精神機能賦活,自発性の改善につながり,本来の身体能力の発揮に有用であったと示唆された.うつ病をはじめ精神的問題を抱える患者は今後も増加していくと予測される.回復期リハビリテーション病棟で働く作業療法士も,メンタルケアを行うことが求められると考えられる.
【症例紹介】左大腿骨頸部骨折を呈し回復期リハビリテーション病棟に入院した70代男性.X-1年前よりうつ病の既往がある.元々は自宅で妻と自立した生活を送っていたが,X-2年前より徐々に口数が減り,自宅に引きこもるようになった.X-1年前,うつ病の診断で精神科に入院し治療を行っていた.しかし,入院中に転倒し左大腿骨頸部骨折の診断を受け回復期リハビリテーション病棟に入院となった.うつ病の服薬調整は行っていたが変化は見られなかった.入院時の主訴は何もしたくない,性格特性としては真面目で心配性である.
【作業療法評価】入院時,運動FIM19点,認知FIM10点,MMSE19点であった.できるADLは見守りレベルと推察されたが,実際のしているADLでは促しがなければ行動できない,促しても途中で手が止まる,すぐに介助を求めるといった自発性低下や介助依存があり,FIM全体が低い結果となった.また,表情は常に硬く眉間に皺が寄っており,クローズドクエスチョンには反応するが思考力を伴うオープンクエスチョンには返答がなかった.疲労感を理由に訓練拒否も多く臥床傾向にあり,離床を促すと相手を罵るような発言も見られた.病棟での他者交流は一切ないなど社会性低下が認められた.
【介入方法】うつ病の改善に向けてメンタルケアを行った.ケアの内容として,生活リズムを改善するために本人と相談しながらスケジュール表を作成し,他職種への理解とスケジュール表の周知を行った.心身機能の向上に合わせ本人とスケジュールを見直し,より本人に合った実用的なものに変更していった.訓練内容としては,機械トレーニングを中心とした有酸素運動をルーティンで行い,その他にリラクゼーション,日光浴,革細工を体調の変化に応じて1日1~3時間,約2.5カ月間継続して行った.
【結果】約1カ月で訓練拒否はなくなった.退院時,運動FIM40点,認知FIM15点,MMSE27点まで改善が見られた.一部動作では介助に依存する場面があったが,基本的には自発的に動くことが増え,全体的に介助量が減少した.コミュニケーション面では,訓練中に自らプライベートな話題を口にするようになる,相手を気遣う関わりが増えるなど良い変化があり,時折笑顔も見られるようになった.
【考察】高齢者の認知機能評価をする上でうつ状態の人やうつ病の人は低得点を示すことが多い(加藤,2023)と報告されており,入院時のMMSEの点数の低さはうつ病による思考力の低下が大きな妨げになっていたと考えられる.そのため,今回身体機能だけでなくメンタルケアも実施したことで,精神機能賦活,自発性の改善につながり,本来の身体能力の発揮に有用であったと示唆された.うつ病をはじめ精神的問題を抱える患者は今後も増加していくと予測される.回復期リハビリテーション病棟で働く作業療法士も,メンタルケアを行うことが求められると考えられる.