[PH-2-1] 精神病症状を伴う重症うつ病エピソード患者に対してうつ病のためのメタ認知トレーニングと個別作業療法を実施した一例
【はじめに】うつ病のためのメタ認知トレーニング(以下,D-MCT)は,うつ病患者の考え方の偏りの改善を目的とした認知行動療法で,全8回のスライドとワークシートからなるパッケージ化されたプログラムである(Moritzら,2019).急性期病棟における実践報告(Hauschildtら,2022)はみられるものの,慢性期病棟における重症うつ病患者への実践や個別介入の効果について言及している研究は少ない.今回,精神病症状を伴う重症うつ病エピソード患者に対して,D-MCTと個別作業療法(以下,OT )を実施し,考え方の偏りや言動に改善が見られたため,以下に報告する.
【事例紹介】A氏,60歳代,女性.診断名は精神病症状を伴う重症うつ病エピソード(ICD-10:F323).高校卒業後は職を転々とし,40代で看護助手として10年間働き,退職.その頃から抑うつ気分や妄想,希死念慮がみられるようになり,X-5年,B病院に初回入院する.以降,入退院を繰り返した.今回,母親が他界し生活が維持できず,X年Y月,B病院に4度目の入院となる.なお,発表に際し,事例から書面にて同意を得ており,B病院の研究倫理委員会より承認を得ている(承認番号:R5-09).
【初期評価】入院から1年8ヶ月が経過.食思低下が続き,「妹の泣き声が聞こえる」,「食べていいかわからない」と話した.集団OTには週に1-2回参加するが,他患者の様子を気にしてすぐに退席した.日中は自室で過ごし,セルフケアには促しが必要.対人交流は乏しいが,話しかけられると小声で応じた.誰に対しても口癖のように謝り,返答に時間を要した.入院生活チェックリスト(以下,ISDA)において,食事量は10,気分と疲労のチェックリスト(以下,SMSF)において,緊張・不安は7,身体疲れは52を示し,「もっと他人と話した方がいいと思う」と記述した.
【介入の基本方針と計画】A氏が誰に対しても謝罪し,抑うつ気分が長期化している要因に,A氏の考え方の偏りが影響していると考えた.A氏が自身の認知や行動について理解を深め,考え方の偏りを自覚することを目標とした.介入としては,週1回,個別でD-MCTを実施し,全8回が終了後,D-MCTの内容を生活や行動に汎化するために個別OTでワークシートを使用して各回の振り返りを行った.振り返りでは,A氏の消極的な発想に対して作業療法士から前向きな考え方を提示した.
【結果】開始当初は自身の考えを言語化することに時間を要したが,徐々に慣れ,所要時間も短くなった.A氏は介入中期に「うつ病の勉強を教えてもらってよかった.ご飯がたくさん食べられて楽しく過ごしていけたらいいと思う.」と記述しており,頻回に見られていた謝罪が感謝の言葉に変化していた. 介入後の感想文には「色んな人に最初は悪く思っていたところを,よく感じる.」と記述し,前向きな解釈が可能になったと実感した.ISDAでは,食事量は37に,SMSFでは,緊張・不安は82,身体疲れは80に変化した.
【考察】A氏が認知の歪みを自覚し,考え方の偏りに起因する行動が改善した要因に,D-MCTの実施により否定的自動思考の抑制に繋がったこと,A氏が自身の考えを表出しやすいようにA氏の特性に合わせて個別の介入としたこと,A氏の認知や感情に焦点を当てて丁寧に振り返りを行ったことが考えられる.一方で,緊張・不安,身体疲れが増大した要因には,介入による疲労感の蓄積,自身の精神状態に目を向ける機会が増えたことが考えられる.
【事例紹介】A氏,60歳代,女性.診断名は精神病症状を伴う重症うつ病エピソード(ICD-10:F323).高校卒業後は職を転々とし,40代で看護助手として10年間働き,退職.その頃から抑うつ気分や妄想,希死念慮がみられるようになり,X-5年,B病院に初回入院する.以降,入退院を繰り返した.今回,母親が他界し生活が維持できず,X年Y月,B病院に4度目の入院となる.なお,発表に際し,事例から書面にて同意を得ており,B病院の研究倫理委員会より承認を得ている(承認番号:R5-09).
【初期評価】入院から1年8ヶ月が経過.食思低下が続き,「妹の泣き声が聞こえる」,「食べていいかわからない」と話した.集団OTには週に1-2回参加するが,他患者の様子を気にしてすぐに退席した.日中は自室で過ごし,セルフケアには促しが必要.対人交流は乏しいが,話しかけられると小声で応じた.誰に対しても口癖のように謝り,返答に時間を要した.入院生活チェックリスト(以下,ISDA)において,食事量は10,気分と疲労のチェックリスト(以下,SMSF)において,緊張・不安は7,身体疲れは52を示し,「もっと他人と話した方がいいと思う」と記述した.
【介入の基本方針と計画】A氏が誰に対しても謝罪し,抑うつ気分が長期化している要因に,A氏の考え方の偏りが影響していると考えた.A氏が自身の認知や行動について理解を深め,考え方の偏りを自覚することを目標とした.介入としては,週1回,個別でD-MCTを実施し,全8回が終了後,D-MCTの内容を生活や行動に汎化するために個別OTでワークシートを使用して各回の振り返りを行った.振り返りでは,A氏の消極的な発想に対して作業療法士から前向きな考え方を提示した.
【結果】開始当初は自身の考えを言語化することに時間を要したが,徐々に慣れ,所要時間も短くなった.A氏は介入中期に「うつ病の勉強を教えてもらってよかった.ご飯がたくさん食べられて楽しく過ごしていけたらいいと思う.」と記述しており,頻回に見られていた謝罪が感謝の言葉に変化していた. 介入後の感想文には「色んな人に最初は悪く思っていたところを,よく感じる.」と記述し,前向きな解釈が可能になったと実感した.ISDAでは,食事量は37に,SMSFでは,緊張・不安は82,身体疲れは80に変化した.
【考察】A氏が認知の歪みを自覚し,考え方の偏りに起因する行動が改善した要因に,D-MCTの実施により否定的自動思考の抑制に繋がったこと,A氏が自身の考えを表出しやすいようにA氏の特性に合わせて個別の介入としたこと,A氏の認知や感情に焦点を当てて丁寧に振り返りを行ったことが考えられる.一方で,緊張・不安,身体疲れが増大した要因には,介入による疲労感の蓄積,自身の精神状態に目を向ける機会が増えたことが考えられる.