[PH-2-2] うつ病患者に個人史と語りを促す関わりにより社会復帰に繋がった一例
退院後当事者とのナラティブ・スロープを用いての振り返り
【はじめに】うつ病で解離症状を呈し失声状態になった症例に対して,質問紙と面接により個人史の語りを促した.それを,多職種で共有し介入を行ったことで著しい改善が見られ社会復帰に繋がった.また,退院後に症例とナラティブ・スロープを用いて当時の振り返りを行い,気持ちの変化,精神科作業療法士としての支援について考察する.発表に際し,本症例から同意を得た.
【症例紹介】40歳代女性.発達の遅れなく出生し,高校を卒業後,建築関連の事務所に就職.30歳代前半に結婚.不妊治療の末,第1子を出産. 本人・夫・長男(年長)の3人家族.第2子の不妊治療を機にうつ状態,自殺企図が見られ,うつ病と診断されX年Y月に医療保護入院となる.
【作業療法評価】ADLは自立していたが,活気なく日中は臥床傾向であった.子供との面会を拒否していたが,携帯電話で家族の写真を眺めていた.集団OTの参加率は13.5%,個別に1日1回5~10分程度面談を行った.Y+3カ月目に失声症状が出現.Y+8カ月までうつ症状は継続.
【経過】Y+9カ月より失声症状に対してOT・Nsと共同で作成した質問紙に記入してもらうように促した.その際に,本人の許可なく口外しないこと・書きたくないことは書かなくて良いことを挙げ,安心感,安全感を保証した.質問紙の内容を基に面接を行った結果,失声症状の背景には,母親役割の減少による不安・社会参加への自信消失があることが明確になった.多職種とのカンファレンスの結果,解決に向け母親役割の再獲得のため,本人には,子供と会うこと・OTで作成した作品を子供へ自ら渡すことを約束した.夫には,本人が子供と定期的に面会を依頼・定期的にメールで家族の様子を本人へ写真の送信を依頼した.次に,社会参加への自信回復に向け,運動・病室外での活動量の増加,院外への買い物など社会性の向上に向けた支援を行った.次第に,活動的に院内生活を送れるようになったが,失声症状の改善は見られなかった.そのため,STと共に発声訓練を行い約2週間程度で発声が可能となりY+10カ月で退院となった.
【結果】集団OTへの参加率は80.1%に向上した.また,自己表現の増加も見られ,お礼などスタッフへ手紙を渡すようになった.
【ナラティブ・スロープの振り返り】入院して8か月間は,「なぜこうなったのだろうか?」「言葉にできない」「誰もわかってくれない」と負の連鎖状態であった.OTに対しても「行ってもよくならない」と思う反面「毎日良く来てくれて話をしてくれることが嬉しかった」また,質問紙と面接については「聞いてもらいたい気持ちもあったので嬉しかった」「やっと負の連鎖から抜け出すことができた」という意見が挙げられた.
【考察】質問紙を使用することで,失声症状の患者に対して個人史から,症状の背景を明確にし,多職種で症状の原因に対して介入することができた.解離症状の治療は,解離を呈さざるを得なかった患者のあり方(歴史)について治療者が理解し,治療関係を通じて患者と共有していく(木村宏之2007)本症例は,個人史の理解を医療者・本人が深めていくことで,患者自身が症状に対して向き合うこと,症状の背景を多職種で共有することにより,一貫性が保たれた介入を行ったことが回復に繋がったと考えられる.入院から8か月間は,OTとして何もできないことへの不甲斐なさを痛感していたが,ナラティブ・スロープの振り返りより,少しの時間でも同じ人が継続して関わっていくことが,患者の安心感・関係の構築に繋がり,寄り添う事の大切さを再認識することができた.
【症例紹介】40歳代女性.発達の遅れなく出生し,高校を卒業後,建築関連の事務所に就職.30歳代前半に結婚.不妊治療の末,第1子を出産. 本人・夫・長男(年長)の3人家族.第2子の不妊治療を機にうつ状態,自殺企図が見られ,うつ病と診断されX年Y月に医療保護入院となる.
【作業療法評価】ADLは自立していたが,活気なく日中は臥床傾向であった.子供との面会を拒否していたが,携帯電話で家族の写真を眺めていた.集団OTの参加率は13.5%,個別に1日1回5~10分程度面談を行った.Y+3カ月目に失声症状が出現.Y+8カ月までうつ症状は継続.
【経過】Y+9カ月より失声症状に対してOT・Nsと共同で作成した質問紙に記入してもらうように促した.その際に,本人の許可なく口外しないこと・書きたくないことは書かなくて良いことを挙げ,安心感,安全感を保証した.質問紙の内容を基に面接を行った結果,失声症状の背景には,母親役割の減少による不安・社会参加への自信消失があることが明確になった.多職種とのカンファレンスの結果,解決に向け母親役割の再獲得のため,本人には,子供と会うこと・OTで作成した作品を子供へ自ら渡すことを約束した.夫には,本人が子供と定期的に面会を依頼・定期的にメールで家族の様子を本人へ写真の送信を依頼した.次に,社会参加への自信回復に向け,運動・病室外での活動量の増加,院外への買い物など社会性の向上に向けた支援を行った.次第に,活動的に院内生活を送れるようになったが,失声症状の改善は見られなかった.そのため,STと共に発声訓練を行い約2週間程度で発声が可能となりY+10カ月で退院となった.
【結果】集団OTへの参加率は80.1%に向上した.また,自己表現の増加も見られ,お礼などスタッフへ手紙を渡すようになった.
【ナラティブ・スロープの振り返り】入院して8か月間は,「なぜこうなったのだろうか?」「言葉にできない」「誰もわかってくれない」と負の連鎖状態であった.OTに対しても「行ってもよくならない」と思う反面「毎日良く来てくれて話をしてくれることが嬉しかった」また,質問紙と面接については「聞いてもらいたい気持ちもあったので嬉しかった」「やっと負の連鎖から抜け出すことができた」という意見が挙げられた.
【考察】質問紙を使用することで,失声症状の患者に対して個人史から,症状の背景を明確にし,多職種で症状の原因に対して介入することができた.解離症状の治療は,解離を呈さざるを得なかった患者のあり方(歴史)について治療者が理解し,治療関係を通じて患者と共有していく(木村宏之2007)本症例は,個人史の理解を医療者・本人が深めていくことで,患者自身が症状に対して向き合うこと,症状の背景を多職種で共有することにより,一貫性が保たれた介入を行ったことが回復に繋がったと考えられる.入院から8か月間は,OTとして何もできないことへの不甲斐なさを痛感していたが,ナラティブ・スロープの振り返りより,少しの時間でも同じ人が継続して関わっていくことが,患者の安心感・関係の構築に繋がり,寄り添う事の大切さを再認識することができた.