第58回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-2] ポスター:精神障害 2 

Sat. Nov 9, 2024 11:30 AM - 12:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PH-2-5] 早期の個別介入が作業同一性に与える影響

柏山 和也 (医療法人内海慈仁会 姫路北病院)

【序論】作業同一性の先行研究は日本の精神科で報告は少ない.今回,うつ病のA氏の否定的な作業同一性に対して運動等早期の個別介入を実施した結果,変化が見られたので考察を加え報告する.尚,A氏と当院倫理委員会の承諾を得ている.
【症例】A氏60代女性 夫と二人暮らし.うつ病. X−1年にうつ病が再燃し症状が改善されないことから入院.入院後 3日目より意欲低下の改善を目的にOTを開始した.
【初期評価】薬剤性パーキンソンニズムの動作緩慢により歩行障害になっている事から「歩けなくなっている」と話す.また,「退院したら夫と出かけたい」とも話している.病棟生活では自室にて臥床していることが多くOTへの参加は見られない.
オランザピン2.5mg 1日2錠  SMSF:意欲89/100 抑うつ81/100 HAM-D: 37/60
【介入方針】作業療法士(以下OTR)は人間作業モデルに基づきA氏の意志に着目,個別介入で運動を提供し意欲の向上を通して作業拡大を目指す.
【経過】➀個別介入を始めた時期 1~2週間(個人OT:0回)
OTR訪室時,A氏は臥床していることが多い.個別介入での10分程度のストレッチや病棟内歩行はOTRの声掛けに応じ実施出来るが,休憩時は下を向いており,OTRが話しかけても頷くのみで自ら話しかける姿は見られない.また,歩行についてA氏は「全然あかんわ」と話すが今後については継続して「退院したら夫と出かけたい」と話す.個人OTには下を向きながら音楽を1曲聞き他者と話さずに退室する.
②肯定的な発言が見られ始めた時期 3~5週間(個人OT:7回)
自身の歩行を「今日は80点ぐらい」と前向きに話した頃,OTRより病棟外への散歩を提案.A氏も「少し行ってみようかな」と話し病棟外への散歩を実施.歩くスピードが遅い事に対して否定的であるが,スタッフから病棟OT中の作業を聞くと曲名や好きな歌手を話す.その際は顔をスタッフの方に向けて話し和らいだ表情が見られる.個人OTの内容は変わらないが少しずつ作業時間は増えている.
③自発的に作業を選択し始めた時期 6~8週間(個人OT:7回)
OTRが訪室すると準備をした状態で座っており休憩時にA氏自ら「最近歩くのが楽しみ」と肯定的な発言や「他の人は何をしているのですか」など音楽以外のタイルモザイクに興味を持ちスタッフに質問するなど自ら話題を作っている.個人OTではタイルモザイクを自ら選択.完成時には作品について話し自身の作品に「可愛くできた」と話す.その後も個人OTの時間になると自発的に病室からデイルームへ向いタイルモザイクを取り組み,他患者やスタッフと話して過ごすようになる.退院日が決まるとA氏はOTRと「出来る事からやってみる」や「帰ったらお父さんがどこかに連れて行ってくれるから楽しみ」など意欲や希望を持って話すことが中心の会話になる.
【結果】X+3ヶ月退院 オランザピン2錠→1錠 SMSF:意欲47/100 抑うつ45/100 HAM-D:22/60
【考察】早期の個別介入は,否定的な作業同一性からA氏が退院後に望んでいる未来の作業同一性へ向けて肯定的な作業同一性の循環へ変化の一助1)となった.また,少しずつ挑戦し出来る事が増えた成功体験は作業有能性を獲得できたきっかけと考えられる.そして,作業同一性と作業有能性との相互関係は早期の作業適応を生み出し2)A氏の意欲の向上を通して作業拡大に繋がったと考えられる.
【文献】
1)鹿田 将隆,他:通所介護を利用して生活を送る高齢者が作業同一性を構築するプロセス.OTジャーナル50 :601-608,2016
2)Renée R.Taylor(編):キールホフナーの人間作業モデル 改訂第5版,共同医書出版社,2021