[PH-3-6] 自閉スペクトラム症を有する多発外傷患者に対し,多職種連携し環境調整をしながら患者教育を行った一症例
【はじめに】自閉症スペクトラム症(AutismSpectrumDisorder以下,ASD)を有し,自殺企図による転落後の多発外傷患者を担当した.多職種で情報交換をしながら症例との関わり方を検討し,麻薬の不適切使用の減少やADL拡大が認められたので報告する.なお,症例・ご家族より書面にて同意を得ている.
【症例紹介】10代男性.専門学校学生.家族構成:母,祖父母,叔父.中学時に家族への暴力やゲーム依存にて精神科病院へ医療保護入院.WISC-4:全検査102,言語理解97,知覚推理115,ワーキングメモリ115,処理速度78.退院後,支援学校高等部へ進学.卒業後,専門学校へ進学し1人暮らしを開始.受傷時は精神科通院中でIQや年齢に比して社会性はかなり幼いと指摘があった.
【現病歴】高所より飛び降り受傷.当院へ救急搬送され,骨盤骨折,両下腿多発骨折,腰椎破裂骨折,顔面骨折,外傷性血気胸と診断された.術後コントロール不良の出血と下肢コンパートメント症候群を来し,第3病日両大腿切断.創部感染にて殿筋壊死による殿筋・脊柱起立筋の膿瘍形成とデブリドマンを繰り返した後,切除となった.第24病日,便による創部汚染予防のためストマ造設された.第37病日褥瘡リスクが高く熱傷ベッドでの除圧管理となった.
【経過】第21病日OT開始.挿管管理中.GCS;E4VtM6.筆談でやりとり可能.病状に関する表出はなく,筆談が楽しかったと記載があった.上肢MMT3+レベル,FIM43点.第38病日精神科介入し,心理士面接開始.Nsより表情変化に乏しく関わり方に悩むとあり,多職種で適宜情報交換をしながら介入した.安静指示にてOTは床上で上肢筋トレ中心に介入した.痛みに対し,フェンタニル持続注入を行われていたがレスキューが頻回でケミカルコーピングを懸念され,第78病日緩和ケアチーム介入となった.OTも含めチームで検討し,医療者の対応が統一されるよう医師との約束事を書いた書面を作成し,症例から常に見える壁面に掲示した.対応が統一され,麻薬の不適切使用が減少し10日後に使用中止できた.症例は薬剤調整や書面に対し不快に思う様子は確認されず,医療者からの声かけを好む様子があった.第114病日熱傷ベッドでの管理が終了となり,体位交換での除圧が必要となった.第126病日車椅子乗車開始.認知機能は問題なく身体的には自力で体位交換が可能となったが声かけがないと行わないため,担当者間で相談した.体位交換をした時刻を症例に記載してもらう,体位交換の時間をアラームに設定するなど試行錯誤の後,30分毎の体位交換が概ね定着した.並行して,ストマ管理やADLの評価・訓練を行ったが,動作獲得後も促しがないと行わない活動が多く,声かけなしで自ら行う必要性を伝え,項目毎に一覧表にした書面を掲示し達成され次第更新した.他職種にとってもADLの進捗状況が一目で分かり,話題にしやすいため,賞賛や励ましが増え,症例も次第に自発的に行うようになった.第189病日転院.症例は今後の具体的な目標とそのために必要な改善点を述べていた.上肢MMT4.FIM83点.
【考察】ASD患者は視覚優位性が強く,具体的・理論的なことが得意とされる一方で全体を俯瞰することや未経験のことを想像するのは苦手とされており,症例にもあてはまっていた.加えて症例は年齢に比して幼く,医療者の賞賛が行動の強化となる様子があった.多職種で症例の特徴を多面的に評価し,効果的な対応を検討した.現状のADLを具体的に示し掲示したことで医療者の関わり方が統一され,良い循環となった.自殺企図後や発達障害など複雑な背景を併せ持つ患者に関わるにあたり,多職種での支援が不可欠であると考えた.
【症例紹介】10代男性.専門学校学生.家族構成:母,祖父母,叔父.中学時に家族への暴力やゲーム依存にて精神科病院へ医療保護入院.WISC-4:全検査102,言語理解97,知覚推理115,ワーキングメモリ115,処理速度78.退院後,支援学校高等部へ進学.卒業後,専門学校へ進学し1人暮らしを開始.受傷時は精神科通院中でIQや年齢に比して社会性はかなり幼いと指摘があった.
【現病歴】高所より飛び降り受傷.当院へ救急搬送され,骨盤骨折,両下腿多発骨折,腰椎破裂骨折,顔面骨折,外傷性血気胸と診断された.術後コントロール不良の出血と下肢コンパートメント症候群を来し,第3病日両大腿切断.創部感染にて殿筋壊死による殿筋・脊柱起立筋の膿瘍形成とデブリドマンを繰り返した後,切除となった.第24病日,便による創部汚染予防のためストマ造設された.第37病日褥瘡リスクが高く熱傷ベッドでの除圧管理となった.
【経過】第21病日OT開始.挿管管理中.GCS;E4VtM6.筆談でやりとり可能.病状に関する表出はなく,筆談が楽しかったと記載があった.上肢MMT3+レベル,FIM43点.第38病日精神科介入し,心理士面接開始.Nsより表情変化に乏しく関わり方に悩むとあり,多職種で適宜情報交換をしながら介入した.安静指示にてOTは床上で上肢筋トレ中心に介入した.痛みに対し,フェンタニル持続注入を行われていたがレスキューが頻回でケミカルコーピングを懸念され,第78病日緩和ケアチーム介入となった.OTも含めチームで検討し,医療者の対応が統一されるよう医師との約束事を書いた書面を作成し,症例から常に見える壁面に掲示した.対応が統一され,麻薬の不適切使用が減少し10日後に使用中止できた.症例は薬剤調整や書面に対し不快に思う様子は確認されず,医療者からの声かけを好む様子があった.第114病日熱傷ベッドでの管理が終了となり,体位交換での除圧が必要となった.第126病日車椅子乗車開始.認知機能は問題なく身体的には自力で体位交換が可能となったが声かけがないと行わないため,担当者間で相談した.体位交換をした時刻を症例に記載してもらう,体位交換の時間をアラームに設定するなど試行錯誤の後,30分毎の体位交換が概ね定着した.並行して,ストマ管理やADLの評価・訓練を行ったが,動作獲得後も促しがないと行わない活動が多く,声かけなしで自ら行う必要性を伝え,項目毎に一覧表にした書面を掲示し達成され次第更新した.他職種にとってもADLの進捗状況が一目で分かり,話題にしやすいため,賞賛や励ましが増え,症例も次第に自発的に行うようになった.第189病日転院.症例は今後の具体的な目標とそのために必要な改善点を述べていた.上肢MMT4.FIM83点.
【考察】ASD患者は視覚優位性が強く,具体的・理論的なことが得意とされる一方で全体を俯瞰することや未経験のことを想像するのは苦手とされており,症例にもあてはまっていた.加えて症例は年齢に比して幼く,医療者の賞賛が行動の強化となる様子があった.多職種で症例の特徴を多面的に評価し,効果的な対応を検討した.現状のADLを具体的に示し掲示したことで医療者の関わり方が統一され,良い循環となった.自殺企図後や発達障害など複雑な背景を併せ持つ患者に関わるにあたり,多職種での支援が不可欠であると考えた.