[PH-4-1] 防御行動からの変容を促す医療刑務所での作業療法の取り組み
【はじめに】
岡崎医療刑務所(以下,当所)は,何らかの精神障害を有する男子受刑者に,専門的治療処遇を実施する刑事施設である.常勤の作業療法士(以下,OTR)が,作業療法(以下,OT)と機能向上作業を実施している.本報告では,5年目に入ったOTの事例を報告する.なお,発表に際し,所属機関と対象者の許可を得ている.
【当所のOT】
当所のOTの目的は,症状の安定,改善更生の意欲の喚起,一般施設に支障のない程度に適応できる能力の改善及び出所後の生活適応能力の改善である.学習,運動,創作活動などを個々の能力,目的に応じたプログラムを実施して,独自に編成した作業遂行チェックリストや体力測定などで定期的に評価を行っている.評価結果などは施設内の各部署へ回覧され,横断的に情報共有している.
【事例紹介】
Aは30代,強制わいせつ事件で懲役5年の判決を受けた.新田中ビネー式知的検査でIO=44と中程度の知的障害と診断され,指導内容が理解できず専門施設での治療が必要であると判断された.法務省式人格目録(MJPI)の所見では,「自力で物事に関わる自信が乏しく,周囲の援助や後ろ盾を求めようとする,優柔不断で周囲の影響を強く受けやすい.」との指摘があり実際そのように生活していた.家族内に他にも知的障害の者が居る.母親も福祉施設に入所しており,放任された環境で育った.高校卒業後は就労継続支援B型事業所を利用していたが,父親の病死を契機に通所しなくなった.入所時診察では,言語表現は稚拙で,職員からの質問の理解が困難だった.また,「漢字は書けない.」と述べ,簡易的な計算問題や日時を答えることが難しく,日常生活では,食生活には関心がないが,一方で,容姿,更衣後の衣類の取扱い,室内の清掃にはこだわりを持ち,ストレスがかかるとシャープペンシルを使用しアームカットを繰り返していた.当所では,①他者に頼らず意欲を持って物事に取り組む,②自己肯定感を獲得することで目標として集団OTを実施することにした.
【結果】
Aの経過はⅠ期,Ⅱ期,Ⅲ期に分けることができた.Ⅰ期は活動への理解や興味を持たせることに対して試行錯誤した.観察評価は,多くの項目が4点満点の1点で,知的障害を有することによる理解の乏しさが見られた.Ⅱ期は行動をともにしていた者の出所後,活動に興味を持ち始め,OTRなどの声掛けにより自主的に活動に参加するようになった.観察評価では,活動への興味関心などの点数が上がる,アームカットがなくなる,体重増加などの改善が見られた.Ⅲ期は職員の指導にも理解を示し,「漢字も普通に書ける.色々できないと言うと他の人がやってくれるから隠していた.」と話し,その後は能力を隠さず自信を持って取り組んだ.また,周囲への気遣いも見せ,グループのリーダー的存在となり活動できるようになった.空間認知など苦手な面もあるものの,観察評価がほとんど4点満点になり,当初の2つの目標はほぼ達成できた.他者と適切に交流することで安心感や達成感なども得られた様子で出所してからの展望を話し,明るい表情で出所していった.
【考察】
対象者にとって能力を隠し本当の自分を出さないということは,自分を守ることであった.しかし,その状況は社会生活の妨げとなるため,打開できるような働きかけが必要となる.今回は,自己開示することが自分を守ることだと学び,円滑な社会生活へとつながったケースではないかと考えられる.このような事例が増えていくと,再犯防止への取組が広がっていくのではないかと考えられ,そのためにOTRとして携われる内容についてさらに検討,研究を進めていきたいと考えている.
岡崎医療刑務所(以下,当所)は,何らかの精神障害を有する男子受刑者に,専門的治療処遇を実施する刑事施設である.常勤の作業療法士(以下,OTR)が,作業療法(以下,OT)と機能向上作業を実施している.本報告では,5年目に入ったOTの事例を報告する.なお,発表に際し,所属機関と対象者の許可を得ている.
【当所のOT】
当所のOTの目的は,症状の安定,改善更生の意欲の喚起,一般施設に支障のない程度に適応できる能力の改善及び出所後の生活適応能力の改善である.学習,運動,創作活動などを個々の能力,目的に応じたプログラムを実施して,独自に編成した作業遂行チェックリストや体力測定などで定期的に評価を行っている.評価結果などは施設内の各部署へ回覧され,横断的に情報共有している.
【事例紹介】
Aは30代,強制わいせつ事件で懲役5年の判決を受けた.新田中ビネー式知的検査でIO=44と中程度の知的障害と診断され,指導内容が理解できず専門施設での治療が必要であると判断された.法務省式人格目録(MJPI)の所見では,「自力で物事に関わる自信が乏しく,周囲の援助や後ろ盾を求めようとする,優柔不断で周囲の影響を強く受けやすい.」との指摘があり実際そのように生活していた.家族内に他にも知的障害の者が居る.母親も福祉施設に入所しており,放任された環境で育った.高校卒業後は就労継続支援B型事業所を利用していたが,父親の病死を契機に通所しなくなった.入所時診察では,言語表現は稚拙で,職員からの質問の理解が困難だった.また,「漢字は書けない.」と述べ,簡易的な計算問題や日時を答えることが難しく,日常生活では,食生活には関心がないが,一方で,容姿,更衣後の衣類の取扱い,室内の清掃にはこだわりを持ち,ストレスがかかるとシャープペンシルを使用しアームカットを繰り返していた.当所では,①他者に頼らず意欲を持って物事に取り組む,②自己肯定感を獲得することで目標として集団OTを実施することにした.
【結果】
Aの経過はⅠ期,Ⅱ期,Ⅲ期に分けることができた.Ⅰ期は活動への理解や興味を持たせることに対して試行錯誤した.観察評価は,多くの項目が4点満点の1点で,知的障害を有することによる理解の乏しさが見られた.Ⅱ期は行動をともにしていた者の出所後,活動に興味を持ち始め,OTRなどの声掛けにより自主的に活動に参加するようになった.観察評価では,活動への興味関心などの点数が上がる,アームカットがなくなる,体重増加などの改善が見られた.Ⅲ期は職員の指導にも理解を示し,「漢字も普通に書ける.色々できないと言うと他の人がやってくれるから隠していた.」と話し,その後は能力を隠さず自信を持って取り組んだ.また,周囲への気遣いも見せ,グループのリーダー的存在となり活動できるようになった.空間認知など苦手な面もあるものの,観察評価がほとんど4点満点になり,当初の2つの目標はほぼ達成できた.他者と適切に交流することで安心感や達成感なども得られた様子で出所してからの展望を話し,明るい表情で出所していった.
【考察】
対象者にとって能力を隠し本当の自分を出さないということは,自分を守ることであった.しかし,その状況は社会生活の妨げとなるため,打開できるような働きかけが必要となる.今回は,自己開示することが自分を守ることだと学び,円滑な社会生活へとつながったケースではないかと考えられる.このような事例が増えていくと,再犯防止への取組が広がっていくのではないかと考えられ,そのためにOTRとして携われる内容についてさらに検討,研究を進めていきたいと考えている.