[PH-4-5] 視覚障害によるうつ病を呈した頸髄損傷患者に個別作業療法を実践した事例
【はじめに】本症例は先天性の聴覚障害及び,両側網膜色素変性症(以下RP)による視覚障害からうつとなった頸髄損傷患者である.視覚障害の影響で集団作業療法へ参加はなく,日常生活動作(以下ADL)改善のため,個別の介入を実施した.症例より聞かれた「家に帰る」という主訴に着目し,病棟スタッフとの連携により院内A D Lが改善した事で表情や訴えの変化が見られたため以下に報告をする.尚,本報告に際し症例及びご家族に説明し同意を得た.
【症例紹介】A氏50代男性,電気会社に勤めていたが,40代頃にRPのため辞職.うつ症状,自殺企図が頻回にあり,自ら腹部を刺し,急性期病院へ入院.当院へ加療目的で入院となる. ADLが改善し,翌年1月に自宅へ退院となるも.翌日自宅階段から転落し急性期病院へ再入院.非骨傷性頸髄損傷,四肢不全麻痺の診断.症状安定後,同年9月当院へ再入院となる.性格は真面目で自分で出来る事はなるべく自分で行う.
【作業療法評価】ASIA分類はD,入院時は終日ベッド上で過ごしていた.コミュニケーションは額に文字を書くことで理解されるが,長文となると混乱.表出はジェスチャー,筆記,単語で返答が可能. ADLはFIM運動項目40点,移動:車椅子4点,移乗4点.その他食事以外のセルフケアは中等度介助.筋力・感覚は観察にて評価し,MMT三角筋(3/5),上腕二頭筋(3/5),上腕三頭筋(3/5),下肢(4/5),体幹(3/5)の低下,握力は右6.3kg,左5.7kg.表在・深部感覚に問題は見られなかった.視力は左目が失明,右目視野は狭く中心がぼやけて見える程度. うまくいかない事があると頻回に頭部を叩く行為がみられた.
【経過】
Ⅰ期:介入開始〜4ヶ月後
ベッド上にて筋力強化訓練.起居動作訓練を中心に実施.動作が改善するにつれて「頑張る」とジェスチャーが見られた.
Ⅱ期介入開始後4ヶ月〜7ヶ月後
病室からホール間を前方介助にて実施.右目の視野狭窄による視力低下及び臀筋・体幹筋力の低下により中等度介助を要した.以前より視力が低下していること,思うように歩行ができないことへの悔しさから悲しい表情と自身を叩く行為が見られた.また,ノートに記述を促すと「もう嫌です」「家に帰りたい」などネガティブな記載が見られ,リハビリに拒否はないが消極的となった.
Ⅲ期:介入開始後7ヶ月〜現在
自信の回復を目的にポジティブなフィードバックを促しつつ,上腕介助から徐々に見守へ介助量を軽減した.歩行能力が改善するにつれて「起きて食べる」「嬉しい」などポジティブな発言が多く聞かれるようなった.また,ご両親が歩けるようになって喜んでいたことを伝えると誇らしい表情が窺えた. 見守りで歩行が可能となった為,病棟内歩行を導入した.
【結果】ASIA分類はD ,MMT:体幹(4/5),三角筋,上腕二頭筋,上腕三頭筋はそれぞれ(4/5),下肢(4/5),握力は右12.1kg,左12.8kg.F I M:41点.移乗5点,歩行4点.起居動作は見守り.表情は以前より明るくなり,自傷行為も減少した. 昼食時は病棟スタッフの見守りのもとホールまで歩行が導入され,離床頻度が増加した.
【考察】山根はうつ病の回復期前期は無理と焦り,受容される体験の時期とし,「大変な病相期を乗り越えたことを評価し,どのようなことでも以前と比較ではなく,今達成した事が肯定的な行動の強化となる」と述べている.本症例は障害により病前に行えていた活動が制限され悲観的となっていた.残存機能を利用した活動を促したことで障害を受容し,ADLが改善した成功体験から自信が回復し,意欲の向上に繋がったと考える.個別介入の利点として,ラポールが形成しやすく,本来のニーズに目標設定ができ,課題の達成感から自己効力感が向上したと考える.
【症例紹介】A氏50代男性,電気会社に勤めていたが,40代頃にRPのため辞職.うつ症状,自殺企図が頻回にあり,自ら腹部を刺し,急性期病院へ入院.当院へ加療目的で入院となる. ADLが改善し,翌年1月に自宅へ退院となるも.翌日自宅階段から転落し急性期病院へ再入院.非骨傷性頸髄損傷,四肢不全麻痺の診断.症状安定後,同年9月当院へ再入院となる.性格は真面目で自分で出来る事はなるべく自分で行う.
【作業療法評価】ASIA分類はD,入院時は終日ベッド上で過ごしていた.コミュニケーションは額に文字を書くことで理解されるが,長文となると混乱.表出はジェスチャー,筆記,単語で返答が可能. ADLはFIM運動項目40点,移動:車椅子4点,移乗4点.その他食事以外のセルフケアは中等度介助.筋力・感覚は観察にて評価し,MMT三角筋(3/5),上腕二頭筋(3/5),上腕三頭筋(3/5),下肢(4/5),体幹(3/5)の低下,握力は右6.3kg,左5.7kg.表在・深部感覚に問題は見られなかった.視力は左目が失明,右目視野は狭く中心がぼやけて見える程度. うまくいかない事があると頻回に頭部を叩く行為がみられた.
【経過】
Ⅰ期:介入開始〜4ヶ月後
ベッド上にて筋力強化訓練.起居動作訓練を中心に実施.動作が改善するにつれて「頑張る」とジェスチャーが見られた.
Ⅱ期介入開始後4ヶ月〜7ヶ月後
病室からホール間を前方介助にて実施.右目の視野狭窄による視力低下及び臀筋・体幹筋力の低下により中等度介助を要した.以前より視力が低下していること,思うように歩行ができないことへの悔しさから悲しい表情と自身を叩く行為が見られた.また,ノートに記述を促すと「もう嫌です」「家に帰りたい」などネガティブな記載が見られ,リハビリに拒否はないが消極的となった.
Ⅲ期:介入開始後7ヶ月〜現在
自信の回復を目的にポジティブなフィードバックを促しつつ,上腕介助から徐々に見守へ介助量を軽減した.歩行能力が改善するにつれて「起きて食べる」「嬉しい」などポジティブな発言が多く聞かれるようなった.また,ご両親が歩けるようになって喜んでいたことを伝えると誇らしい表情が窺えた. 見守りで歩行が可能となった為,病棟内歩行を導入した.
【結果】ASIA分類はD ,MMT:体幹(4/5),三角筋,上腕二頭筋,上腕三頭筋はそれぞれ(4/5),下肢(4/5),握力は右12.1kg,左12.8kg.F I M:41点.移乗5点,歩行4点.起居動作は見守り.表情は以前より明るくなり,自傷行為も減少した. 昼食時は病棟スタッフの見守りのもとホールまで歩行が導入され,離床頻度が増加した.
【考察】山根はうつ病の回復期前期は無理と焦り,受容される体験の時期とし,「大変な病相期を乗り越えたことを評価し,どのようなことでも以前と比較ではなく,今達成した事が肯定的な行動の強化となる」と述べている.本症例は障害により病前に行えていた活動が制限され悲観的となっていた.残存機能を利用した活動を促したことで障害を受容し,ADLが改善した成功体験から自信が回復し,意欲の向上に繋がったと考える.個別介入の利点として,ラポールが形成しやすく,本来のニーズに目標設定ができ,課題の達成感から自己効力感が向上したと考える.