[PH-4-6] 自閉スペクトラム障害に対するセルフモニタリングの促進−症例報告
はじめに
自閉スペクトラム障害(ASD)はセルフモニタリング機能が低く,自身に対する意識が希薄と考えられている(関根,2018).今回,セルフモニタリングが困難で,感情や疲労を感じ取ることが難しく,活動量のコントロールが不良な患者に対し,活動量・疲労・感情を記録するモニタリング表を導入し,対処行動を促した症例を経験したので報告する.報告にあたり本人に書面を用いて説明し同意を得ている.
事例紹介
29歳の女性,ASD,適応障害.膠原病のため8歳時よりステロイド剤を使用している.中学時代にいじめを理由に過量服薬が複数回みられた.大学卒業後,介護職員として就職したが職場に馴染めず,抑うつ気分を主訴に心療内科を受診しうつ病の診断を受けたが通院は1ヶ月で中断した.26歳時に小学校教諭を目指し専門学校へ入学したが,多忙と不適応から抑うつ気分が増悪した.母親から「働かないとダメだ」と言われ,気分の落ち込みが強まり,他県の伯父宅へ身を寄せた.27歳時に当科を初診し,不安から自殺企図があることや,家族関係の調整が必要と判断され任意入院となった.入院後に各種検査を行い,日本語版自閉症スペクトラム指数(AQ)では得点27点とカットオフ値以下だがやや高く,下位項目では社会的スキルと注意の切り替えがカットオフ値を上回った.またADOSでは診断分類は非自閉症スペクトラムだったが,相互的対人関係の得点はやや高かった.検査や特徴を踏まえASDと診断され本人にも告知された.
介入経過
入院時ハミルトンうつ病評価尺度は21項目31点,ヤング躁病評価尺度は4点で重度のうつ状態であった.翌日から作業療法(OT)を開始し,個別の作業活動と集団でのストレッチ体操を行った.スタッフの意向と自身の希望に齟齬が生じると,気分の落ち込みや希死念慮が生じたが,服薬調整やスタッフの受容的な関わり,OTでの状況の整理や対処法の検討などで改善を認めた.母親との距離を保つために退院後は一人暮らしを試行することとなり,一人暮らし準備のため9日間の退院を挟み,入院51日後に退院した.就学の継続は困難と判断され,専門学校は退院と同時に退学した.退院後は外来作業療法に通いながら就職活動を行い,A型事業所を併用することになった.家事と仕事で活動量が増え疲労した様子だったが,本人は自覚できないため,活動量を視覚化し気分と疲労を記録するモニタリング表を作成し,セルフモニタリングの練習を促した.活動量を視覚化したことで活動と気分の関係に気づき,疲労度も意識するようになり,不調になる前に活動量を減らし休息を取り入れるようになった.半年ほど経過した頃に,仕事形態の変化,支援員の変更,ネット上のトラブルから希死念慮が生じ,過量服薬し再入院となった.一人暮らしは寂しさも強く不安が強まるため県外の妹と同居することとなった.不調時にはセルフモニタリングが疎かになりやすいため,適宜モニタリング表の利用を促している.
考察
セルフモニタリングが困難なASD患者に対して,活動量・疲労・気分を同時記録する視覚化の支援が有効であった.視覚化することで自身の活動量と,疲労と気分の関係を振り返りやすくなり,不安から不調になる前に活動量を調整することが可能になった.また,モニタリング表を一緒に振り返ることで,生活課題に対する対処戦略を検討する手がかりが得られた.症例は不調時に記録が疎かになりやすいため,今後はスマートフォンのスケジュールアプリなどを利用し,セルフモニタリングを習慣化させることが課題である.
自閉スペクトラム障害(ASD)はセルフモニタリング機能が低く,自身に対する意識が希薄と考えられている(関根,2018).今回,セルフモニタリングが困難で,感情や疲労を感じ取ることが難しく,活動量のコントロールが不良な患者に対し,活動量・疲労・感情を記録するモニタリング表を導入し,対処行動を促した症例を経験したので報告する.報告にあたり本人に書面を用いて説明し同意を得ている.
事例紹介
29歳の女性,ASD,適応障害.膠原病のため8歳時よりステロイド剤を使用している.中学時代にいじめを理由に過量服薬が複数回みられた.大学卒業後,介護職員として就職したが職場に馴染めず,抑うつ気分を主訴に心療内科を受診しうつ病の診断を受けたが通院は1ヶ月で中断した.26歳時に小学校教諭を目指し専門学校へ入学したが,多忙と不適応から抑うつ気分が増悪した.母親から「働かないとダメだ」と言われ,気分の落ち込みが強まり,他県の伯父宅へ身を寄せた.27歳時に当科を初診し,不安から自殺企図があることや,家族関係の調整が必要と判断され任意入院となった.入院後に各種検査を行い,日本語版自閉症スペクトラム指数(AQ)では得点27点とカットオフ値以下だがやや高く,下位項目では社会的スキルと注意の切り替えがカットオフ値を上回った.またADOSでは診断分類は非自閉症スペクトラムだったが,相互的対人関係の得点はやや高かった.検査や特徴を踏まえASDと診断され本人にも告知された.
介入経過
入院時ハミルトンうつ病評価尺度は21項目31点,ヤング躁病評価尺度は4点で重度のうつ状態であった.翌日から作業療法(OT)を開始し,個別の作業活動と集団でのストレッチ体操を行った.スタッフの意向と自身の希望に齟齬が生じると,気分の落ち込みや希死念慮が生じたが,服薬調整やスタッフの受容的な関わり,OTでの状況の整理や対処法の検討などで改善を認めた.母親との距離を保つために退院後は一人暮らしを試行することとなり,一人暮らし準備のため9日間の退院を挟み,入院51日後に退院した.就学の継続は困難と判断され,専門学校は退院と同時に退学した.退院後は外来作業療法に通いながら就職活動を行い,A型事業所を併用することになった.家事と仕事で活動量が増え疲労した様子だったが,本人は自覚できないため,活動量を視覚化し気分と疲労を記録するモニタリング表を作成し,セルフモニタリングの練習を促した.活動量を視覚化したことで活動と気分の関係に気づき,疲労度も意識するようになり,不調になる前に活動量を減らし休息を取り入れるようになった.半年ほど経過した頃に,仕事形態の変化,支援員の変更,ネット上のトラブルから希死念慮が生じ,過量服薬し再入院となった.一人暮らしは寂しさも強く不安が強まるため県外の妹と同居することとなった.不調時にはセルフモニタリングが疎かになりやすいため,適宜モニタリング表の利用を促している.
考察
セルフモニタリングが困難なASD患者に対して,活動量・疲労・気分を同時記録する視覚化の支援が有効であった.視覚化することで自身の活動量と,疲労と気分の関係を振り返りやすくなり,不安から不調になる前に活動量を調整することが可能になった.また,モニタリング表を一緒に振り返ることで,生活課題に対する対処戦略を検討する手がかりが得られた.症例は不調時に記録が疎かになりやすいため,今後はスマートフォンのスケジュールアプリなどを利用し,セルフモニタリングを習慣化させることが課題である.