第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-5] ポスター:精神障害 5 

2024年11月9日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (大ホール)

[PH-5-1] 青年期以降の自閉スペクトラム症傾向を把握するための生活行動チェックリストおよび支援マニュアルの開発

飯田 妙子, 藤田 さより, 新宮 尚人 (聖隷クリストファー大学 リハビリテーション学部作業療法学科)

【背景】青年期以降の自閉スペクトラム症(以下,ASD)支援に関して,国外では心理社会的な介入に焦点を当てた研究が実施されており,対象者やその家族に対し,人と環境にアプローチする作業療法の特性が活かせると報告されている.しかし,国内では,特に児童精神科や発達障害に精通した専門職が在籍していない病院・施設において,支援者自身の知識・経験不足等によりASD支援の課題を感じている作業療法士(以下,OTR)は多い.そのため,精神・地域など幅広い領域で関わる青年期以降のASD者をOTRの視点で理解し,適切な支援に繋げられる体制を早急に構築する必要がある.
【目的】ASD傾向を持つ者の日常生活上の特性を客観的に捉え,早期に課題を把握し具体的な支援に繋げられるように,「生活行動チェックリスト」と「支援マニュアル」を開発する.本研究では,チェックリストの項目および支援マニュアルの内容の作成を実施した.
【方法】①チェックリスト項目の作成:先行研究(飯田・新宮・堀,2020)内でOTRが実施した観察評価によって抽出されたASD者の日常生活上の行動特性170項目を,ICFをモデルとして作られた社会機能の構成要素(生活維持機能,作業遂行機能,対人機能,コミュニケーション機能,移動機能,参加機能,その他;山根,2015)に沿って分類・整理し,項目を作成した.回答の選択肢については,評価しやすいようにリッカート尺度を用い,行動特性が「よく観察される(2点)〜全く観察されない(0点)」の3件法とした.その後,研究内容に精通していないOTRにチェックリストを使用してもらい,表面的妥当性の検討を行った.
②生活行動支援マニュアルの作成:青年期・成人期ASD者に関する文献から情報を集約し,①で作成したチェックリスト項目に対応した支援方法を各項目2〜3個程度になるように研究者がまとめた.その後,精神・発達領域に精通している研究者5名で意味・内容が適切であるか検討し,内容の統合や表現の変更を行った.
なお,本研究は所属機関の倫理委員会の承諾を得た上で,全ての対象者から同意を得て実施した.
【結果】①生活行動チェックリスト:研究者が作成後,OTR11名(経験年数12.3年,精神領域従事年数7.3年)に実際に利用してもらい,回答時の困難さや表現の適切さについて自記式調査を実施した.90%以上が「問題ない」と回答した項目は採用し,それ以外の項目については内容を再検討した.その結果,チェックリストは35項目(心身機能4項目,身辺処理2項目,生活管理3項目,作業遂行機能7項目,対人機能6項目,コミュニケーション4項目,移動2項目,余暇1項目,参加1項目,背景因子5項目)となった.
②生活行動支援マニュアル:医学中央雑誌,Medical Onlineにて検索した青年期・成人期ASD者の支援に関する文献,専門家によって作成されたテキスト37件を参照し,チェックリスト35項目の内容に沿った支援方法を文章化した.また,マニュアルの使用方法やASD支援の基本原則についてもまとめた.その後,研究者6名(OTR,修士・博士号取得者)で内容や表現の適切さを検討し,3回の修正を経て完成に至った.
【考察】今後は,今回作成したチェックリスト・支援マニュアルを実際の臨床場面でOTRに実践していただき,チェックリストの妥当性および支援マニュアルの効果について検証する予定である.本研究により,OTRが青年期以降のASDに関する理解を深めるともに,一定の質を担保した適切な支援を提供できる病院・施設の増加に繋げていきたい.
【謝辞】本研究は,JSPS科研費(JP23K01922)の助成を受け,実施された.