第58回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-5] ポスター:精神障害 5 

Sat. Nov 9, 2024 3:30 PM - 4:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PH-5-2] 精神科病院長期入院患者の社会認知に対する認知リハビリテーションの実践報告

小野寺 佑麻1, 小松 美咲1, 古川 咲季1, 斉藤 貴史1, 久米 裕2 (1.秋田回生会病院, 2.秋田大学大学院医学系研究科保健学科専攻作業療法学講座)

【はじめに】
 社会認知は,他者の意図や性質を理解する人間としての能力を含む,対人関係の基礎となる認知機能であり,その社会認知を改善するためのMetacognitive Training(以下,MCT)が実践されている.当精神科病院では,長期入院患者に対してMCTを応用した「やわらか頭教室」(古村ら,2012)が実践された.本研究の目的は,同プログラムの効果検証とともに対象者における社会認知への影響について検証することである.
【方法】
 対象は2021~2023年に当院の認知リハビリテーションプログラム「やわらか頭教室」へ参加した入院患者21名(性別:男性14名,女性7名)であった.同プログラムは週1回・全12回/クールで実施され,看護師,臨床心理士,作業療法士を含む多職種によって運用された.通常のMCTプログラムに準じて,各テーマの要点を繰り返し確認する内容やなじみのあるイラストや写真を利用する点が一部改変された.各クールの介入前後で,社会認知機能評価尺度Social Cognition Screening Questionnaire(以下,SCSQ),一般性自己効力感尺度General Self-Efficacy Scale(以下, GSES),精神症状評価尺度Brief Psychiatric Rating Scale(以下,BPRS)が実施された.加えて,対象の基本属性として,年齢(歳),入院年数(年),教育年数(年),病前の推定知能指数(以下,病前IQ)を評価するJapanese Adult Reading Test 25(以下,JART25)がデータ収集された.
 SCSQは,作業記憶,文脈からの推論,心の理論,メタ認知,敵意バイアスの下位項目から構成され,敵意バイアスを除く4項目の合計が総得点となる.敵意バイアスのみ反転するが,点数が高いほど障害程度は軽度と判定される.
 統計学的検討として,各指標を介入前後で比較するために対応のあるt検定,二変量間の相関または関連を調べるためにスピアマンの順位相関係数または単回帰分析が適用された.統計処理にはEZR (version 1.64)を用い,統計学的な有意水準は5%とした.倫理的配慮として,本研究は当院の倫理委員会による承諾とともに,対象個人に対して研究内容を説明し同意を得て実施された.
【結果】
 対象の基本属性における中央値(四分位範囲)は,年齢52.0(17.0)歳,入院年数は10.2(11.4)年,教育年数は12.0(2.0)年,病前IQは87.5(16.6)であった.介入前後の比較結果より, 全項目において有意差は認められなかった(p>0.05).相関分析の結果では,病前IQとSCSQ総得点のpost得点(r=0.44,p=0.046)とSCSQ心の理論のpost得点(r=0.50,p=0.02)において有意な正の相関が認められた.さらに,推定された回帰モデルのうち,回帰モデル:SCSQ心の理論_postスコア=-1.013+0.073×病前IQは分散分析よりp<0.05で有意であり,病前IQの回帰係数(beta=0.073, p=0.01)も有意であった.しかし,同モデルの調整済み決定係数R2は0.265と予測精度は低かった.
【考察】
 本研究における回帰モデルの結果より,JART25によって推定される病前IQが高い対象者ほど「やわらか頭教室」後に"心の理論"の障害程度が軽度となることが示された.JART25による病前IQは,MCTプログラムの適格基準として今後さらに検証すべき課題点であると推察される.