[PH-5-5] 急性期精神科作業療法による抑うつ状態と運動機能に対する効果とその関連性の検証
【目的】
当院では,急性期の精神疾患対象者における早期の社会復帰を目指すための精神科作業療法が施行されている.これまでの急性期における精神科作業療法では,治療経過に応じて心理・精神機能のみならず,運動機能の変化が臨床的に観察されている.特に,抑うつ症状や運動機能を含む定期的な臨床評価は,地域移行後の予後予測やクライシスプラン作成のために不可欠な情報であると考えている.本研究の目的は,当院精神科病棟に入院する精神科作業療法の対象者における抑うつ状態と運動機能の変化およびそれらの関連性を明らかにすることである.
【方法】
本研究のデータ収集期間は2022年9月18日から2024年1月11日であった.対象は精神科作業療法が処方された入院患者のうち抑うつ症状が認められ,ハミルトンうつ病評価尺度(以下,HAM-D)が主治医により施行された方とした.当院による評価手順として,対象者へ入退院時に(1)HAM-Dが評定され,精神科作業療法開始時と退院時に(2)握力,(3)10m歩行試験,(4)Short Physical Performance Battery(以下,SPPB)から成る運動機能評価が実施された.当院精神科作業療法の導入はリハビリテーション計画書に基づいた面接の実施,対象者本人と協働して設定された治療目標の合意を経て開始される.精神科作業療法の実施頻度は8単位/週を基本とし,実施内容は手工芸,運動療法から構成された.参加者の健康状態に合わせて,参加頻度や参加する集団形態(個別または集団作業療法)が個別に調整された.多職種によるチームカンファレンスは入院時,精神科作業療法開始の2週間後,退院時の計3回実施され,治療経過や治療方針が定期的に確認された.統計学的検討として,入退院間の評価指標を比較するためにウィルコクソンの符号順位和検定,2変量間の相関を調べるためにスピアマンの順位相関係数が適用された.統計解析にはIBM SPSS28.0が使用され,統計学的有意水準は5%に設定された.
【結果】
分析対象は21名(性別:男性9名,女性12名,平均年齢±標準偏差:59±16歳,平均在院日数:73±45日)であった.入退院間の比較結果より,HAM-D(入院時の中央値[四分位範囲]:21[12]点,退院時:6[4]点,効果量r=0.87)が有意に低下した.作業療法開始時と退院時の比較結果より,SPPB下位項目の4m歩行テスト(開始時:3.22[1.61]秒,退院時:3.09[0.62]秒,効果量r=0.58),立ち上がり(開始時:9.87[3.89]秒,退院時:8.47[2.17]秒,効果量r=0.58)の成績が有意に向上した.しかしながら,HAM-DスコアとSPPBの立ち上がり(r=-0.32,p=0.16),4m歩行(r=-0.29,p=0.20)の変化量の間に有意な相関は認められなかった.
【考察】
本研究の結果より,当院の精神科作業療法を含む介入経過の中で,抑うつ状態と運動機能の改善が認められた.抑うつ状態と運動機能の有意な相関関係は認められなかったが,介入経過に応じた抑うつ症状の改善と運動機能の変化は継続して検証すべきと考える.本研究の結果は,精神科作業療法による介入のみならず,薬物療法や生活環境の調整を含めた多要素的な介入の成果であり,今後は精神科作業療法参加の有無などを統制した検証が望まれる.
当院では,急性期の精神疾患対象者における早期の社会復帰を目指すための精神科作業療法が施行されている.これまでの急性期における精神科作業療法では,治療経過に応じて心理・精神機能のみならず,運動機能の変化が臨床的に観察されている.特に,抑うつ症状や運動機能を含む定期的な臨床評価は,地域移行後の予後予測やクライシスプラン作成のために不可欠な情報であると考えている.本研究の目的は,当院精神科病棟に入院する精神科作業療法の対象者における抑うつ状態と運動機能の変化およびそれらの関連性を明らかにすることである.
【方法】
本研究のデータ収集期間は2022年9月18日から2024年1月11日であった.対象は精神科作業療法が処方された入院患者のうち抑うつ症状が認められ,ハミルトンうつ病評価尺度(以下,HAM-D)が主治医により施行された方とした.当院による評価手順として,対象者へ入退院時に(1)HAM-Dが評定され,精神科作業療法開始時と退院時に(2)握力,(3)10m歩行試験,(4)Short Physical Performance Battery(以下,SPPB)から成る運動機能評価が実施された.当院精神科作業療法の導入はリハビリテーション計画書に基づいた面接の実施,対象者本人と協働して設定された治療目標の合意を経て開始される.精神科作業療法の実施頻度は8単位/週を基本とし,実施内容は手工芸,運動療法から構成された.参加者の健康状態に合わせて,参加頻度や参加する集団形態(個別または集団作業療法)が個別に調整された.多職種によるチームカンファレンスは入院時,精神科作業療法開始の2週間後,退院時の計3回実施され,治療経過や治療方針が定期的に確認された.統計学的検討として,入退院間の評価指標を比較するためにウィルコクソンの符号順位和検定,2変量間の相関を調べるためにスピアマンの順位相関係数が適用された.統計解析にはIBM SPSS28.0が使用され,統計学的有意水準は5%に設定された.
【結果】
分析対象は21名(性別:男性9名,女性12名,平均年齢±標準偏差:59±16歳,平均在院日数:73±45日)であった.入退院間の比較結果より,HAM-D(入院時の中央値[四分位範囲]:21[12]点,退院時:6[4]点,効果量r=0.87)が有意に低下した.作業療法開始時と退院時の比較結果より,SPPB下位項目の4m歩行テスト(開始時:3.22[1.61]秒,退院時:3.09[0.62]秒,効果量r=0.58),立ち上がり(開始時:9.87[3.89]秒,退院時:8.47[2.17]秒,効果量r=0.58)の成績が有意に向上した.しかしながら,HAM-DスコアとSPPBの立ち上がり(r=-0.32,p=0.16),4m歩行(r=-0.29,p=0.20)の変化量の間に有意な相関は認められなかった.
【考察】
本研究の結果より,当院の精神科作業療法を含む介入経過の中で,抑うつ状態と運動機能の改善が認められた.抑うつ状態と運動機能の有意な相関関係は認められなかったが,介入経過に応じた抑うつ症状の改善と運動機能の変化は継続して検証すべきと考える.本研究の結果は,精神科作業療法による介入のみならず,薬物療法や生活環境の調整を含めた多要素的な介入の成果であり,今後は精神科作業療法参加の有無などを統制した検証が望まれる.