第58回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-5] ポスター:精神障害 5 

Sat. Nov 9, 2024 3:30 PM - 4:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PH-5-7] 疲労の自覚と言語表出・セルフモニタリングを促すツールとして気分と疲労のチェックリストを用いる有用性の検討

千葉 美並1, 古賀 誠1,2, 佐藤 範明1,2 (1.昭和大学附属烏山病院 リハビリテーション室, 2.昭和大学保健医療学部リハビリテーション学科作業療法学専攻)

【序論】今回,疲労の自覚と他者への援助希求ができず,生活が破綻し,デイケア(以下,DC)通院が継続できなくなった入院事例を担当した.本事例に対し,疲労の自覚と認知の変容を目的に,可視化できる事が特徴の気分と疲労のチェックリスト Ver.2(以下SMSF)を使用して,作業療法(以下,OT)後に作業療法士(以下,OTR)と振り返りを実施した.事例がセルフモニタリングを継続し,認知の変容を認めたため報告する.
【目的】統合失調症の疾患的特性として疲労感の自覚の乏しさがある.自覚なき疲労感は,認知の歪みや早期警告サイン(Early Warning Sign,EWS)を継続し,再発につながる恐れがある.そこで,今回はSMSFで疲労の自覚と言語表出・セルフモニタリングを促進するツールとしての有用性について本事例を通して検討した.
【事例紹介】統合失調症30歳代後半の男性.過去の入院を機に,健康維持者として生活をすることに価値を置き,規則正しい生活を送っていた.退院後2年間は,医療継続とDC通院を欠かさなかった.X年Y-3月に受診とDC通院を中断し,その後は閉居的な生活を送り,幻覚妄想活発,支離滅裂な言動が出現し,X年Y月Z日に医療保護入院となった.交流において,OTRが体調を気遣うと「大丈夫です」と答えることが多く,具体的な言語化はなかった.本報告にあたり,本人に対し口頭で説明を行い,同意を得たとともに当院の倫理審査においても承認された.
【OT評価】入院後,OTの場面にて入院前の生活について振り返り,DCにて負担に感じる出来事が多くあった,と語った.事例は「疲れを意識したことがない」「今思うと疲れていたのかも.それで薬も飲めなくなったかも」と語り,周囲へ援助希求ができず負担が重なり,疲労を自覚できず,生活が破綻した.
そこで,疲労に対する項目が設定された自記式評価表であるSMSFを導入し,疲労の自覚と適切な疲労の言語表出を狙った.事例は言語理解良好で,要旨をまとめて質問をすると振り返りができるストレングスがあった.
【OT介入】DC復帰を想定し,事例がDCにて参加していた創作活動をOT場面で様々な条件(個人活動・知り合いの多い小集団・馴染みのないメンバーが多い集団)で設定した.事例には条件によってどのような疲労の違いがあるか意識するよう伝え,SMSFを用いて疲労の自覚に焦点を当てた振り返りを繰り返し行った.介入期間は1ヶ月とした.
【結果】SMSFを使用して「疲れを数値化するのは今までにない感覚」「疲労に頭・人・体があると思わなかった」と発見を語り,「僕はイライラ・ムシャクシャ,焦りは疲れていても感じないことが分かった」と自身の傾向についてOTRに報告が可能になった.
最終的には,自身の疲労をSMSFを使用せずに具体的に言語化し,「不安や困り事は相談できると思う」と報告・連絡・相談に対する認知の変容が認められた.事例は現在も再入院なくDC通院を継続し,自身の体調や相談内容を「大丈夫です」ではなく,具体的に言語化し,DCスタッフへ相談できている.
【考察】統合失調症患者にとって,セルフモニタリングし,地域生活を継続できることは,社会参加の改善やrecoveryに影響する.EWSへの気づきとして,セルフモニタリングをすることで再入院を予防した研究が報告されている(Morriss,Vinjamuri,Faizal,Bolton,&McCarthy,2013).事例はセルフモニタリングを継続する中で,自分の不得手に気づき改善するように行動が変化した.この事例を参考に,SMSFをセルフモニタリングのツールとして活用し,クライアントの再入院防止やrecoveryに貢献できるよう,今後も研鑽を積みたい.