第58回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-6] ポスター:精神障害 6 

Sat. Nov 9, 2024 4:30 PM - 5:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PH-6-1] 追体験を通した主観的体験の共有についての一考察

本人の強みに着目した症例

島谷 洋平, 久保田 大平 (医療法人社団鶴永会 鶴ヶ丘ガーデンホスピタル)

【はじめに】対象者理解のプロセスにおいては,日常生活や作業遂行の振り返りによって対象者の「主観的体験」を丁寧に確認しこれを共有していく必要がある(香山,2014).今回強迫性障害,うつ病により再入院を繰り返している症例(以下A氏)を担当.A氏は入院生活中強迫行為がみえず自宅と症状が乖離していた.生育歴の聴取,追体験を通して強迫症状の要因,本人の強みについて考察した.なお本発表で使用されている症例については本人から発表について承諾を得ている.
【症例】A氏,40代,女性,診断名は強迫性障害,うつ病,母,息子2人,姉夫婦と同居,幼少期から母が離婚,復縁を繰り返しておりA氏へ暴力あり.小学生で強迫症状(手洗い)が出現.美容学校に進学,卒後就職(美容師).10年働くも強迫症状が強まり退職.姉夫婦と同居を始めた時期に手洗い,掃除,洗濯を一日中行い抑うつ,希死念慮が強まり初回入院(X年).退院後通院加療.結婚,出産,離婚を経験,強迫行為と育児の両立が困難となり抑うつ,OD未遂し2回目入院(X+10年).以後も強迫行為のために日常生活がままならずパニック,自殺企図あり入退院を繰り返している.X+13年に自殺企図あり休息目的で6回目の入院となる.
【初回評価】
[OT場面]院内作業療法は週2回手工芸に参加し「作業療法の時間が一番楽しみ」と積極的.ビーズ細工に取り組み,作品は「迷惑かけているから何かしたいと思って」と家族へ作成.選択理由は「美容師の時に職場で作っていて,得意なんです」と語る.
[初回面接]入院前Y-BOCS21点,入院中6点.強迫行為の差は「自分のテリトリーじゃないから大丈夫なのかも」.入院理由は「強迫観念に疲れました.何事も順序,マイルール通りに行わないと気が済まなくて.子供のこととかも母親と妹に任せてしまったり」.ニーズは「仕事をしたい.子供を育てていかなければいけないし,金銭面でも家族に迷惑をかけているから」と語る.入院中はOTと喫煙以外は臥床していることがほとんど.
【アセスメント】Y-BOCSの差,「自分のテリトリーじゃないから大丈夫なのかも」との発言から強迫症状の変化は環境の影響と考察,OT場面での作業意欲は本人の強みに繋がると考え,症状悪化の環境と作業に対する意欲の要因を明らかにするため生活歴聴取,追体験を通し要因を探った.
【介入】
[面接2・3回目]小学校時代は「頑張って登校してたけど居場所がなく両親の仲も険悪で.今思うとこの頃にストレスがたくさんかかったことが発症の原因かも」.小6で転校,友達もでき手先が器用だったことを褒められ『美容師になれば』と言われ「この時に漠然とだけど美容師になりたいと思った」.中学卒後美容学校に進学,「友人もいて楽しかった」.美容師時代は強迫症状はありつつ仕事は続けられていた.母とはA氏が結婚していた時期以外は同居.「嫌なこともあったけど一人手で育ててもらった感謝もある.同居生活もさほど窮屈さはない.文句を言われる時もあれば『生きていてくれるだけでいい』と言った発言もあったり極端」と語る.
【考察】本人の語りから幼少期の家庭環境,母の影響は大きく,アンビバレンツな感情を語ったことからも大きなストレスがあると予想.また,自宅生活で親としての役割喪失も影響していると思われる.一方で厳しい生活環境の中でも美容師として長年働いていた経験は重要である.強迫症状も抑えられていたことからA氏らしい生活の一つと予想され,その経験を通して家族に贈り物をするということは本人にとって意味ある作業と考える.本人の経験を振り返り,意味ある作業をすることが回復の一助になったと思われる.今回の症例を通して,強みを活かした作業を提供していくにあたって本人との主観的体験の共有が重要であると感じた.