第58回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-6] ポスター:精神障害 6 

Sat. Nov 9, 2024 4:30 PM - 5:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PH-6-3] 作業療法の治療構造を選択的に段階付けることの有用性

対人関係に困難を抱える症例からの検討

辻 真奈1, 大石 未来1, 北田 有沙2,3, 東江 薫1, 大類 淳矢3,4 (1.東香里第二病院, 2.東香里病院, 3.大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科, 4.大阪保健医療大学)

【はじめに】作業療法の治療構造に含む作業活動や集団の段階付けが,自閉性スペクトラム障害(ASD)と統合失調症を有する女性の対人関係面での逸脱行動の軽減に奏功したため報告する.なお本発表について本人の同意を得ている.
【症例紹介】A氏,60代女性,ASD,統合失調症.短大卒後,おもちゃ販売店やデパートの食品売り場で勤務したが,人間関係のトラブルから退職し,自宅に引きこもりとなった.X-15年に被害妄想と強迫的な言動があり,精神科を初診.継続した受診は行えず,服薬や保清が困難な状態であった.X-1年食事摂取不良にて入院するが,飛び降り,全身に損傷を負った.精神的な治療の必要性があり,同年にB病院に医療保護入院.入院後,頻繁な性的発言や他患者への粗暴行為を認めた.X年Y月Z日作業療法が開始された.
【初期評価】Y月Z日~Y+1月Z日:作業療法士(OTR)や他患に突然触れるといった逸脱行為があるためその出現を最小限にすることを目的に,周囲にOTRがいない環境で創作活動を実施した.しかし男性OTRへの性的発言や,作品を破く,物品を舐めるなどの行為が見られた.活動内での会話はOTRにのみ「お昼は何食べましたか」などの単一の質問で話題の広がり,自己開示はなかった.生活障害を包括的に捉えるためにLife Assessment Scale for the Mentally(LASMI)を用いたところ,合計97/163点であり,対人関係領域は27/52点,特に集団活動では6/8点であり,生活障害が顕著であった.1ヶ月間のOT参加回数中の逸脱行為が見られた日数を計測したところ, 3回/6回中(50%)であった.他者との適切なかかわりが難しく逸脱行動に至ってしまうことを問題点として抽出し,この軽減を目的に介入を行う方針とした.
【介入経過】①作業活動の段階付け期(Y+1月~Y+3月):作業遂行能力と興味関心を考慮し,2工程の反復の折り紙(山折りと谷折り)を実施した.逸脱行動の拡散防止を目的に,主に関わるOTRは1人に設定した.OTRに対して作業に関する困りごとなどの現実的な相談をするようになったが,逸脱行為は6回/15回中(40%)と微減した程度であった.また他OTRをじっと無言で見るなどの,交流欲求の強さが垣間見られた.
②集団の段階付け期(Y+3月~Y+4月):治療構造のうち,作業活動の設定は①期のまま,集団としての設定は複数のOTRが均等に関わる方針とした.その結果作業に集中し,1回あたりの作品の進行や完成度が向上し,逸脱行為は0回/9回中(0%)と消失した.LASMIは合計85/163点で,対人関係領域は21/52点,特に集団活動では4/8点となり減少した. 活動内での会話はOTRや他患者に対して学生時代の恋愛話を具体的に開示し,「人の話を聞いたり話すことが楽しい」と前向きな発言が聞かれた.
【考察・まとめ】A氏の逸脱行動は,交流欲求の充足の不十分さからその衝動の発散として表現されていたと考えられる.山根は,作業療法の治療構造として対象者とOTRに加えて,作業活動や集団を含むとしている.これらのうち,作業活動のみへの着目を行った①期では不十分な改善であったが,集団への着目を行った②期では①期よりも大きな改善が得られた.また集団の治療因子としてYalomはカタルシスを,山根は受容体験を挙げている.A氏はこれらを経験することで安心感を獲得し,逸脱行為以外での自己表現が容易になった結果,逸脱行為の減少につながったと考える.作業療法の提供にあたっては,これらの治療構造や治療因子を適切に把握したうえで選択的に使用することの重要性が示唆された.