第58回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-6] ポスター:精神障害 6 

Sat. Nov 9, 2024 4:30 PM - 5:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PH-6-5] 精神科病院における感覚刺激補助具導入の可能性と,その課題

菅井 誠也1, 鎗田 英樹1,2 (1.京友会病院 リハビリテーション部, 2.帝京平成大学 健康医療スポーツ学部 リハビリテーション学科)

【背景】
身体拘束は患者への直接的な身体面,精神面等への影響に加え倫理的な問題も大きく,最小化に向けた努力が必要である.しかし日本では以前から身体拘束の適正化・最小化に向けた検討が行われているものの(八田ら.2003),身体拘束実施者数は2003年から2023年までで約2.1倍に増加している(精神保健福祉資料630調査.2003,2023).また日本は諸外国と比べて人口当たりの拘束数の多さ(G. Newton-Howes et al. 2020)が指摘されているのに対し,デンマークでは感覚刺激補助具を用いた体系的なアプローチが減薬や拘束時間の減少(Charlotte. Andersen, 2013,2017)に成果を上げており,注目されている.
【目的】
本研究の目的は,精神科病棟に勤務する看護職員に対し,感覚刺激補助具導入に関する聞き取り調査を行うことで,日本での導入の可能性や課題について,示唆を得ることである.
【方法】
半構造化面接による聞き取り調査.A病院勤務の看護職員に感覚刺激補助具の体験後,聞き取りを行う.対象職種は看護師もしくは准看護師とした.内容はICレコーダーにて録音し,逐語録化,内容分析を行った.なお本研究の実施に際し,ラックヘルスケア株式会社より製品の無償貸与を受けた.また対象者に説明の上,紙面にて同意を得た上で倫理的配慮に基づき実施した.
【結果】
看護職員8名(女性6名・男性2名,看護師7名・准看護師1名,平均年齢51.4±6.7歳,平均精神科病棟勤務歴18.2±9.4年)を対象に,半構造化面接による聞き取りを実施した(平均聴取時間12分37秒).結果,92のコードが得られ,それらを分類したところ,49のサブカテゴリ—に分類された.最終的に"使用感","懸念事項","使用時に必要な工夫","対象となる患者","対象とならない患者"の5つのメインカテゴリーに分けられた."使用感"では「暑い・蒸れる」と言った意見が半数から聞かれた."懸念事項"としては「場所がない」ことが6件と最も多く,「独占・奪い合い」によるトラブルといった意見も4件出た."使用時に必要な工夫"としては「見守り」が6件."対象となる患者"では「認知症」が半数の4件だったが,反対に"対象とならない患者"としても1件出ていた.導入自体に難色を示すような意見は聞かれなかった.
【考察】
「場所がない」や「暑い・蒸れる」といった意見から,環境調整の必要を大きく感じられた.病棟内でなく,共有スペースを活用し場所を確保する事,エアコンによって温度や湿度を調整し利用する事などが有効ではないかと考えられる.また,「独占・奪い合い」といったトラブルや「見守り」が必要という意見も多かった.トラブルを事前に防ぐための使用ルールの明確化や使用時にはスタッフが立ち会うなどの工夫が考えられる.
全体として導入そのものに否定的ではなかったことから,これらの課題を解決することが本国での活用に繋がる可能性を感じた.しかし,あくまで限られた人数の意見であることや,人種による当事者への効果の差が不明なことなどもあり,さらなる詳細な研究が必要である.