第58回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

精神障害

[PH-7] ポスター:精神障害 7

Sun. Nov 10, 2024 8:30 AM - 9:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PH-7-1] 社会的コミュニケーション症の特性を持つ方へのESI及びCESを用いた復職支援

村岡 和也1, 中村 干城1,2 (1.横浜市総合保健医療センター, 2.一般社団法人Conatus)

<はじめに>
 神経発達症及びその傾向がある方は,社会的(語用論的)コミュニケーションに問題を抱える事も少なくない.また自閉症の言語障害の中核が語用論的言語障害である事が明らかになった今日,語用論的言語障害への言語治療ができなくては自閉症の指導にはならない(杉山登志郎,2002)との報告がある.横浜市総合保健医療センターでは社会的コミュニケーションに特化した言語治療として,Communication Enhancement Session(以下CES)を実施している.またOTRが実施できるコミュニケーションに関する評価法として社会交流評価(Evaluation of Social Interaction 以下ESI)があるが,言語治療と併用した報告は少ない.今回,対人交流に苦手意識のある対象者に対してCESに加え,ESIを通して改善点を明確にした支援を実施した所,対人交流の質が改善し,職場復帰する機会を得た.本報告ではその経過とCES及びESIを併用した有用性について確認すると共に,今後の課題について検討する事を目的とする.対象者には本事例報告について書面及び口頭にて説明をして同意を得た.開示すべきCOIはない.
<対象者情報>
 20代後半男性,適応障害(抑うつ状態,ADHD傾向).大学院を出てX-4年4月就職するも,入社3か月後には上司より怒鳴りつけられる等の体験があり,気分の落ち込み,精神科を受診して上記の診断を受けるが,休みを取りながら仕事は継続する.COVID-19蔓延に伴い外出困難・ストレス発散ができず症状が悪化し,X年7月に休職に至る.同年10月当センター精神科デイケア開始した.
<CES及びESIの導入及び初期評価>
 復職にむけて「人とうまく話せるようになりたい」「周りから“コミュ障”と言われるけど,どうすれば良いのか」との訴えから,デイケア正式利用開始となったX+1年2月よりCES開始,本人の希望もあってX+1年4月にESIを実施した.CESでは,会話の意図や発話の解釈を想像するといった推論に関する社会認知機能の脆弱性が見られ,正確だけど回りくどく,客観的過ぎて上から目線になる台詞を「良い言い方」と評定する等,社会的コミュニケーションが原因で対人関係に支障が出やすい傾向がみられた.またESIで分析した結果,1.0ロジット(カットオフ値と同値)であり,集団内で他者が質問やコメントをしている時に相手に顔を向けずかつ反応せず等,行動や態度で自ら孤立を作りだす要因がいくつか散見した.
<結果を踏まえた支援の展開と再評価>
 CESでは会話の台本を作ってロールプレイの練習をする際,相手がどのような印象をもつかといった他者視点を担当スタッフと照らし合わせながら関わった.またESIの結果を元に,行動面における技能取得の目標を設定し,デイケアでの実際の交流の中で練習を行う習得モデルアプローチを実施した所,自身の障害特性の理解が進んで対人交流でのズレが減り,抑うつ状態の改善や集団適応の促進,さらにX+1年11月のESIの再評価では1.3ロジットと有意な変化が認められた.雑談等,仕事以外の話もして職場の方と良好な関係を築きたいとの前向きな発言も見られるようになりX+2年1月より復職し,現在も継続している.
<考察>
 “コミュ障”と言われて本人はどこをどうすれば良いのかわからないといった苦悩に対し,CESでは社会的コミュニケーションに関する言語的,認知的な改善を促す事ができたが,ESIによる技能取得の明確化と習得モデルアプローチの実施は,言語治療が対応できない側面の改善を強化するのに有用である事が推察された.一方,上記の点での有用性は示唆されたが,CES/ESIはまだ報告件数が少ないため更なる実践報告が必要と考えられた.