第58回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-7] ポスター:精神障害 7

Sun. Nov 10, 2024 8:30 AM - 9:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PH-7-2] 精神障害領域の作業療法士は“その人らしさ”をどのように捉えているか

精神科病棟における実践報告の分析から

小林 崇志1,2, 千葉 美並2, 川畑 啓2, 水野 健2 (1.昭和大学 保健医療学部リハビリテーション学科, 2.昭和大学附属烏山病院)

【はじめに】
 我が国の精神科医療は入院生活中心から地域生活中心への転換,対象者が安心して自分らしい生活ができるような体制の構築が進められている.作業療法(以下OT)もまた対象者がその人らしい生活ができるように支援することを目的としており,“その人らしさ”を捉えることが重要である.“その人らしさ”を捉える方法のひとつに,国際生活機能分類(以下ICF)における個人因子の整理が挙げられるが明確に分類されておらず,作業療法士(以下OTR)の力量が問われ,提供されるOTの内容に影響を及ぼす可能性もある.そのため,情報収集する項目について検討することはOTの質の担保に貢献すると考えられる.本報告の目的は,精神科病棟に従事するOTRが対象者の“その人らしさ”を捉えるために情報収集する際のポイントについて検討することである.
【方法】
 医学中央雑誌web版を用い,検索語を「精神科and作業療法」および「精神障害and作業療法」とし,原著論文,症例報告,最新3年分(2021年~2023年)を条件として文献抽出を行った(2023年12月28日17:30).抽出された142件のうち,文献選別基準を,OTRが筆頭著者,精神科病棟入院患者(認知症は除外)に対する介入としたところ,20件が該当した.論文中の事例紹介や作業療法評価から,構成的評価に基づく記載以外の文章を分析対象とし,ICFに基づき心身機能,活動と参加,環境因子に分類できたものを除外した.抽出された文章は文脈を踏まえて切片化し,KJ法を参考にカテゴリー化した後,各カテゴリー同士の関連について考察を行った.
【結果】
 抽出された切片は117個で,カテゴリーは最終的に≪様々な経験≫≪興味・関心や価値観≫≪ものごとの捉え方≫≪性格≫≪本人の思い≫≪反応と行動≫≪希望≫の7つに分類された.≪様々な経験≫には<技能や興味が活かされた経験><継続できた/できなかった経験><周囲から評価された経験><やりがいを感じた経験><ライフイベント>などが含まれ,切片は33個だった.≪興味・関心や価値観≫には<興味・関心><生活史の中で重視してきたこと>が含まれ,切片は8個だった.≪ものごとの捉え方≫には<出来事の原因に対する捉え方><生活の捉え方>などが含まれ,切片は13個だった.≪性格≫には<気質><他者との関係に影響する>が含まれ,切片は9個だった.≪本人の思い≫には<家族に対する思い><自身に対する思い>が含まれ,切片は12個だった.≪反応と行動≫には<OTの参加状況><OTの参加姿勢><興味・関心に触れた際の反応>が含まれ,切片は18個だった.≪希望≫には<過去><直近><退院後>などが含まれ,切片は24個だった.
【考察】
 ≪様々な経験≫に含まれる切片が最も多いことから,精神科病棟に従事するOTRは≪反応と行動≫や≪興味・関心や価値観≫≪性格≫を,点ではなく過去から現在にかけた活動と参加の文脈に沿って解釈することで“本人らしさ”を捉えていると示唆された.さらに≪本人の思い≫や≪ものごとの捉え方≫といったその人の主観的体験を評価することで理解を深めていると考えられた.また,精神障害領域では≪希望≫の評価に難渋するケースも少なくないが,各要素の相互作用を考慮して過去から現在,未来と時間軸に沿って検討することで“本人らしさ”につながる≪希望≫を捉えていると考えられた.本報告は,各投稿規定等に沿って執筆された論文から得た情報であるため,実際に行われている評価を十分に反映できていない可能性が考えられる.今回得られた結果に基づきインタビュー調査等を行うことで,“その人らしさ”を評価するための視点を深めていく必要がある.