第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-8] ポスター:精神障害 8

2024年11月10日(日) 09:30 〜 10:30 ポスター会場 (大ホール)

[PH-8-4] 長期入院の統合失調症患者における「たたき染め」がもたらす治療効果

自律神経反応・唾液アミラーゼ・血圧・脈拍・VASを用いて

江口 喜久雄, 中山 広宣, 近藤 昭彦, 太田 研吾 (令和健康科学大学 リハビリテーション学部作業療法学科)

【序言】作業療法では,木工の釘打ちや革細工のスタンピングなどに含まれる「創作的たたき」があるが,その治療効果を生理学的に検証したものは少ない.
【目的】作業活動で用いる「創作的たたき」の一つである「たたき染め」によるリラクセーション効果を生理学的に検証する.
【対象と方法】対象者は精神療養病棟に任意入院している統合失調症患者で,男性9名,女性7名,計16名(年齢67.1±4.8歳,入院年数30.9±9.0年,クロルプロマジン換算値508.4±361.0)であり,全員,病院内寛解状態であった.「たたき染め」の効果を検証するために,「座位安静」,「たたき染め」,「ガーゼのみをたたく(以下,たたきのみ)」の3条件にて比較した.各条件の実施時間は5分程度としランダムに実施した.各条件は持ち越し効果を考慮して1週間程間隔をあけた.客観的評価は,TAS9VIEW(RW)(YKC社)を用いて自律神経反応(副交感神経系,交感神経系)を,唾液アミラーゼモニター(ニプロ社)を用いてストレス値を,上腕式血圧計(オムロン)を用いて血圧,脈拍を測定した.自律神経反応は活動前後に1回ずつ3分間測定し,2~3分までの1分間の平均値を用いた.ストレス値,血圧,脈拍は活動前後に2回ずつ測定し,平均値を用いた.また,主観的評価として,Visual Analog Scale(以下,VAS)(「0」を大変気分が悪い,「100」を大変気分が良い)を用い,活動前後に1回ずつ測定した.本研究は倫理審査委員会の承認(承認番号:22-014)を得ており,実施前に協力施設の施設長と対象者本人に文書と口頭にて説明し同意を得た.COI関係にある企業等はない.
【結果】3条件すべての指標のベースラインとなる実施前の値にShapiro-Wilk検定を行った.正規性が認められなかった場合にはFriedman検定を用い,正規性が認められた場合には多重比較検定(Tukey法)を用いた.その結果,すべての指標に有意差は認められなかった.そのため,3条件の実施前のデータを割合100とし,それぞれの実施後のデータの変化を割合にて算出した.そして,3条件のそれぞれの指標の割合を用いてFriedman検定と多重比較(Schaffe)を行った結果,副交感神経系(以下,HF)では,「たたき染め」が「座位安静」よりも有意に上昇した(p<0.05).VASでは「たたき染め」が「座位安静」(p<0.01)および「たたきのみ」(p<0.05)よりも有意に上昇した.交感神経系(以下,LF/HF),ストレス値,血圧,脈拍では,有意差は認められなかった.加えて,HF上昇,ストレス値低下,VAS上昇を同時に示した対象者は,「座位安静」では3名,「たたき染め」では8名,「たたきのみ」では4名であった.
【考察】今回,「たたき染め」では,HF上昇,ストレス値低下,VAS上昇を同時に示した対象者が最も多く,HFでは「たたき染め」が「座位安静」よりも有意に上昇したという結果は,リズミカルに繰り返したたくという創作的「たたき染め」がリラクセーション効果に有効であることを示唆していると考える.そして,VASでは,「たたき染め」が「座位安静」,「たたきのみ」よりも気分が良くなることが示唆され,かつ,LF/HF,血圧と脈拍に変化が認められなかったことは,「たたき染め」が身体的負荷の影響を受けることなく,心理的なリラクセーション効果を純粋に反映していると考える.
以上より,「たたき染め」は長期入院統合失調症患者のリラクセーションに有用であることが生理学的に示唆された.