[PH-8-6] 精神科デイケア利用者に対する就労を目指した介入 —単症例報告—
【はじめに】
我々は,第57回日本作業療法学会において,社会認知機能改善療法であるSocial Cognition and Interaction Training (SCIT)による就労関連因子への効果について報告し,SCIT実施によって社会認知機能および社会機能の改善は認められたものの,職業準備性の向上は認められず,SCITと並行して他のプログラムの実施の必要性を述べた.今回,就労を希望する症例(以下,A氏)に対して,SCIT実施後に職業準備性向上のための地域支援者との連携および職場体験を実施し,その中で生じた問題点の明確化,共有,解消を行ったのでその介入経過と結果を報告する.報告に際し同意を得ている.
【事例紹介】
A氏は,統合失調症の30歳代の就労を希望する男性である.本人のニーズは「どんなところでも良いので働きたい」とのことであった.SCITにて社会認知機能,社会機能の向上が認められている.
【作業療法評価】
今回の介入以前にSCITにより心の理論(心の状態推論質問紙;8→9点),メタ認知(心の状態推論質問紙;8→9点),社会機能(社会的職業的機能評定尺度;84→88点)に改善が見られた.一方で職業準備性(就労移行支援のためのチェックリスト;50→50点)の改善は認められなかった.介入開始時の就労移行支援チェックシート得点は,下位項目「自分の障害や症状の理解」,「作業環境の変化への対応」の項目で3/5で,合計50/164であった.具体的には,「自分の障害や症状の理解」では出来事に対して誤った結論を性急に出してしまい,被害的に考えてしまう傾向にあること,「作業環境の変化への対応」では環境の変化により緊張感が高まってしまうことが挙げられた.
【方針】
①A氏の就労に対しての意向を確認,②地域支援者と連携し職場見学・実習を行う計画,③職場体験を通し就労への不安要素の振り返りを行うこととした.
【経過・結果】
①A氏は「A型だと不安がある,B型での働く環境を確認したい」と話し,就労継続支援への意向を確認した.②地域支援者と情報共有,就労継続支援B型の見学ののち実習を開始した.実習の経過,開始2日目にて中断となったとのことであった.③A氏は「B型での作業は可能だと思った.しかし,他利用者から攻撃されるトラブルがあった.」と話された.この振り返りとして,A氏が性急な結論を出していないかどうかを確認し,結論に対していくつかの推論を行った.また,環境変化での緊張感の高まりもあったとのこと,それによって被害的になってしまう可能性があることを振り返った.最終評価時,就労移行支援チェックリスト得点は,下位項目の「自分の障害や症状の理解」,「作業環境の変化への対応」の項目で2/5,合計46/164と職業準備性の向上がなされた.
【考察】
A氏は,SCIT実施後に社会認知機能と社会機能の向上は認められたが,職業準備性は向上しなかった.今回の職業準備性への介入では「作業環境の変化への対応」,「自分の障害や症状の理解」の問題点が挙げられ,新しい環境では緊張感を強く感じてしまう傾向,さらに出来事を被害的に捉えてしまう傾向にあり,職場体験でも同様の出来事が見られた.実際の職場体験での内容をスタッフと推論する作業を行い,被害的な内容に対しては偶発的に起きた内容である可能性との推論もすることができた.職場体験は新しい環境でもあり,A氏にとって緊張感の高い状況下であることが考えられ,その状況下での判断には偏りが生じている可能性を共有できた.今回の報告では,A氏は就労継続支援に結びついていないものの,職業準備性に対しての関わりとして地域支援者との連携や就労場面における問題点への介入の必要性が示された.
我々は,第57回日本作業療法学会において,社会認知機能改善療法であるSocial Cognition and Interaction Training (SCIT)による就労関連因子への効果について報告し,SCIT実施によって社会認知機能および社会機能の改善は認められたものの,職業準備性の向上は認められず,SCITと並行して他のプログラムの実施の必要性を述べた.今回,就労を希望する症例(以下,A氏)に対して,SCIT実施後に職業準備性向上のための地域支援者との連携および職場体験を実施し,その中で生じた問題点の明確化,共有,解消を行ったのでその介入経過と結果を報告する.報告に際し同意を得ている.
【事例紹介】
A氏は,統合失調症の30歳代の就労を希望する男性である.本人のニーズは「どんなところでも良いので働きたい」とのことであった.SCITにて社会認知機能,社会機能の向上が認められている.
【作業療法評価】
今回の介入以前にSCITにより心の理論(心の状態推論質問紙;8→9点),メタ認知(心の状態推論質問紙;8→9点),社会機能(社会的職業的機能評定尺度;84→88点)に改善が見られた.一方で職業準備性(就労移行支援のためのチェックリスト;50→50点)の改善は認められなかった.介入開始時の就労移行支援チェックシート得点は,下位項目「自分の障害や症状の理解」,「作業環境の変化への対応」の項目で3/5で,合計50/164であった.具体的には,「自分の障害や症状の理解」では出来事に対して誤った結論を性急に出してしまい,被害的に考えてしまう傾向にあること,「作業環境の変化への対応」では環境の変化により緊張感が高まってしまうことが挙げられた.
【方針】
①A氏の就労に対しての意向を確認,②地域支援者と連携し職場見学・実習を行う計画,③職場体験を通し就労への不安要素の振り返りを行うこととした.
【経過・結果】
①A氏は「A型だと不安がある,B型での働く環境を確認したい」と話し,就労継続支援への意向を確認した.②地域支援者と情報共有,就労継続支援B型の見学ののち実習を開始した.実習の経過,開始2日目にて中断となったとのことであった.③A氏は「B型での作業は可能だと思った.しかし,他利用者から攻撃されるトラブルがあった.」と話された.この振り返りとして,A氏が性急な結論を出していないかどうかを確認し,結論に対していくつかの推論を行った.また,環境変化での緊張感の高まりもあったとのこと,それによって被害的になってしまう可能性があることを振り返った.最終評価時,就労移行支援チェックリスト得点は,下位項目の「自分の障害や症状の理解」,「作業環境の変化への対応」の項目で2/5,合計46/164と職業準備性の向上がなされた.
【考察】
A氏は,SCIT実施後に社会認知機能と社会機能の向上は認められたが,職業準備性は向上しなかった.今回の職業準備性への介入では「作業環境の変化への対応」,「自分の障害や症状の理解」の問題点が挙げられ,新しい環境では緊張感を強く感じてしまう傾向,さらに出来事を被害的に捉えてしまう傾向にあり,職場体験でも同様の出来事が見られた.実際の職場体験での内容をスタッフと推論する作業を行い,被害的な内容に対しては偶発的に起きた内容である可能性との推論もすることができた.職場体験は新しい環境でもあり,A氏にとって緊張感の高い状況下であることが考えられ,その状況下での判断には偏りが生じている可能性を共有できた.今回の報告では,A氏は就労継続支援に結びついていないものの,職業準備性に対しての関わりとして地域支援者との連携や就労場面における問題点への介入の必要性が示された.