第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-1] ポスター:発達障害 1

2024年11月9日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PI-1-5] 作業療法分野における児童虐待に係る研究:スコーピングレビュー

後藤 健太郎1,2, 中村 拓人3, 濱田 匠4, 池田 公平3, 笹田 哲5 (1.三浦市立病院 診療支援部 リハビリテーション科, 2.神奈川県立保健福祉大学大学院 保健福祉学研究科 博士後期課程, 3.神奈川県立保健福祉大学, 4.鈴鹿医療科学大学, 5.神奈川県立保健福祉大学大学院 保健福祉学研究科)

【背景】児童虐待は,子どもの健康や発育,尊厳に危害を及ぼす身体・精神・性的虐待,ネグレクト,搾取と定義され,深刻な世界的問題である.被虐待児は発達障害の類似症状や心理社会的不適応のリスクが高まり,長期的な健康への悪影響がある.児童虐待の予防や早期介入は,社会的支援の強化や多職種連携が必要とされ,作業療法士もその予防や改善に貢献できる専門家として,支援に関与する.日本では,虐待対策として法改正や児童相談所の体制強化が進められており,虐待相談件数は増加傾向にあるため,更なる対策が求められている.本研究の目的は,作業療法(以下,OT)分野における児童虐待関連の研究を概観し,OTの現状や課題を把握することである.本研究で得られた知見は,将来のOT実践や研究の方向性の明確化に寄与する.
【方法】本研究はScoping ReviewのPRISMA-ScRに基づき実施した.文献は2023年9月26日に,医中誌web版,CiNii Research,CINAHL,Health Source,SocINDEX,MEDLINE,ERIC,PubMed,Web of Science,Cochraneを用いて検索した.検索式は("Shaken Baby Syndrome"[Mesh] OR "Child Abuse"[Mesh] OR "Battered Child Syndrome"[Mesh] OR "Psychological Trauma"[Mesh] OR "Sexual Trauma"[Mesh] OR "Stress Disorders,Post-Traumatic"[Mesh] OR "Stress Disorders,Traumatic,Acute"[Mesh]) AND ("Occupational Therapy"[Mesh] OR "Occupational Therapists"[Mesh])とした.除外基準は,①児童虐待に係る記述がない,②原著論文でない,③日本語または英語でない,④0-18歳の児童虐待に係る記述がない,⑤OTに係る記述がないこととした.検索された論文は,重複論文除外後,独立した2名以上の研究者が精読し,タイトルと要旨から①-③の論文を除外後,本文から④-⑤の論文を除外し,適格論文を抽出した.最後に,研究の実施国,デザイン,発表年,主要な発見を整理した.
【結果】適格論文は21編(米国10編,豪国3編,カナダ2編,英国2編,南アフリカ・イスラエル・スウェーデン・日本1編)であった.観察研究は1974-1983年1編,1984-1993年1編,1994-2003年1編,2004-2013年3編,2014-2023年2編で,トラウマ,虐待,発達上の課題に影響を受けた子どものニーズに対応するOTの多様で重要な役割を強調し,個別化された介入,地域社会との関わり,全人的な治療介入の重要性を強調した.事例研究は,1984-1993年,1994-2003年,2004-2013年に2編ずつで,被虐待児への直接的な介入から親を介した間接的な介入まで,児童虐待の様々な側面におけるOTの多様性と有効性,そして包括的なケアと支援のための多職種連携の重要性を強調した.文献研究は,1994-2003年5編,2014-2023年1編で,児童の虐待回復の様々な側面におけるOTの本質的な役割を強調し,効果的な治療と支援のための早期介入,専門的介入,専門職間連携の重要性を強調した.質的研究は,2014-2023年2編で,障害を持つ両親の子どもや難民2世といった特定の集団が直面する特有の課題を理解することの重要性と,彼らの幸福と作業への参加を改善するために,状況に合わせた介入を提供するOTの役割を強調した.
【考察】OTの児童虐待への理解と応用の進展が明らかになり,方法論や介入における認識の高まりと多様化が示された.研究の地理的多様性は,文化的・社会経済的背景を越えて,児童虐待に対処するOTの普遍的な関連性を強調している.今後は,十分に代表されていない地域や集団への研究の拡大,新しい介入戦略や全人的な児童福祉のための専門職間連携の探求などが必要と考えられる.