第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-1] ポスター:発達障害 1

2024年11月9日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PI-1-7] 高校の通級指導における学校作業療法

自閉スペクトラム症児に対する自分研究の実践

倉澤 茂樹1, 立山 清美2, 田中 善信1, 小笠原 牧1, 塩津 裕康3 (1.福島県立医科大学 保健科学部, 2.大阪公立大学大学院 リハビリテーション研究科, 3.中部大学 生命健康科学部)

【序論】高等学校では多様な学びの場を提供するために通級による指導(以下,通級指導)がはじまっている.高等学校で通級指導を受けている生徒のうち,自閉スペクトラム症(以下,ASD)が最も多く,40%を超えている.ASD児に実践されている非薬物療法の1つに認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy:CBT)がある.CBTは個人を取り巻く環境に対する反応について可視化し,悪循環となっている要因を同定し,環境・認知・行動を変容することで不適応からの脱却を目指す.今回,高等学校での通級指導において「自分研究」と称したCBTを実践し,一年後,社会性や二次障害が改善した事例を報告する.
【目的】本報告の目的は,高等学校での通級指導におけるASD児に対する自分研究の適用および意義を検討することである.なお,報告に際し,書面によって本人・保護者および担当教諭の同意を得ている.
【方法】対象:A氏,ASDと診断されている2年生の男子.高等学校での成績は学年相当よりやや上.発達障害であるとの認識は持っているが具体的な症状や認知特性など疾病への理解は乏しく,学校生活において困り感はない.体育でゲームに負けた際,数名の男子に物を投げつけるなどトラブルが頻発していた.2年次に担当教諭が保護者に通級指導を紹介すると希望されたため,週に1度50分の通級指導がはじまった.作業療法士(以下,OT)は月1回程度訪問し,自分研究を実践し,OTが参加しない通級指導では担当教諭が実施し,その経過を次回OTの訪問時に確認することとした.自分研究は①今,気になっていること,相談したいこと②直近の数日間で起こった「良いこと」「嫌なこと」を確認し,研究すべきテーマが複数生じた場合はA氏に選択してもらうという流れですすめた.
【経過および結果】自分研究によってA氏は負けることに苛立ちを覚えること,過去に受けたいじめが現在の人間関係に悪影響を及ぼしていることを自覚されていった.半年後,クラスメイトとのトラブルはほぼ無くなった.その後,働けない自分と向き合いようになり,3年次の春に福祉的就労を希望された.以降の通級指導は福祉的就労に向けた具体的な準備をすすめる場となった.1年後の子どもの行動チェックリスト(本人用)による再評価では,規則違反的行動が臨床域から正常域へ,不安/抑うつ,引きこもり/抑うつ,注意の問題が臨床域から境界域,身体愁訴が境界域から正常域に改善した.
【考察】CBTでは外在化することで自分の特性に気づき,物事を客観的に理解することを促す.自分に対する認識が変化したことにより,回避行動や他者に相談するといった対処技能の獲得につながったと考える.A氏の行動変容が自信となり,新たな挑戦に繋がったのかもしれない.3年生になったA氏にとって就労は大きな課題であり,福祉的就労を決断することに寄与した可能性がある.一方,自分研究を進めていく中で,A氏と担当教諭の関係性に変化を感じさせるいくつかのエピソードが生まれた.「教える→教えられる」から「共に考え解決する」というパートナーシップが形成されたと思われる.近年,障害を取り除き克服することを目指す医学モデルに対し,エンパワメントを引き出し障害と共にある暮らしを目指す社会モデルへのパラダイムシフトが求められている.自分研究は社会モデルとの一手段と成り得ることも窺えた.
【結論】高等学校の通級指導におけるASD児への自分研究の適応可能性が示唆された.
本報告は令和4年度科学研究費補助金(基盤研究C:22K02749)により,助成を受けて実施した.