第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-2] ポスター:発達障害 2 

2024年11月9日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (大ホール)

[PI-2-5] 段階付けた遊びの提供で,外界への働きかけに変化が見られた低出生体重児の一例

深見 志乃1, 深見 真也2, 井上 和博3 (1.医療法人慈風会 厚地脳神経外科病院, 2.医療法人慈風会 かもいけバオバブ, 3.鹿児島大学医学部保健学科臨床作業療法学講座)

【はじめに】
 遊びを通して子ども自らが運動・知覚しながら,自己の身体・環境・他者について学んでいく探索行動は重要である.しかし,低出生体重児においては,治療に伴う鎮静,長期安静のため早期から感覚運動経験が減少することが指摘されている(内尾,2019).今回,落ち着きのなさと遊びの単調さを認める極低出生体重児の事例に対し,遊びを通した介入を行ったところ上肢機能面や対人面,行動面に変化が認められたため報告する.なお,事例の保護者には発表する旨を説明し同意を得ている.
【事例紹介】
 3歳女児.在胎35週6日,1426gにて出生. 2歳10ヶ月時より作業療法が開始となる.現在,療育手帳A2を取得し療育・保育園に参加している.
【経過】
 初期評価時(X年4月):遠城寺式・乳幼児分析的発達検査では,姿勢運動1歳3ヶ月,手の運動8.5ヶ月,基本的習慣7.5ヶ月,対人関係6.5ヶ月,発語5.5ヶ月,言語理解6.5ヶ月である.感覚面において,触覚は物を握る場面や身体に接触がある場面で落ち着く様子が見られた.固有覚は物や空間に合わせた動きが拙劣で力強い動きを好んだ.視覚と聴覚には注意がそれやすいが,慣れた人や好みの形状を認識できていた.上肢機能面は,玩具の形状に関わらず手掌に握り込み,握る・離す・引っ張る・叩きつける等の動きが主であった.特に紐や棒状の物を好み,玩具に合わせた操作や探索はなく,動作誘導には拒否を示していた.対人面は,慣れた人に注目・接近行動があるが,働きかけは少なかった.遊びが上手くいかない場面でも要求行動は示さず,好みの遊びに戻っていた.行動面は,座位での遊びは持続しづらかった.以上のことから,本児の落ち着きのなさと遊びの単調さの要因として,触覚や固有覚の探求傾向,視覚と聴覚の敏感さ,探索行動の乏しさ,人への働きかけの少なさを挙げ,遊びの持続を目標に,個室にて以下の介入を行った.
 介入①感覚遊び(X年4月~X+1年2月):反発のある物や細かい物を選択し指先の動きを促した.初めは床に広げていたが,徐々に箱の中で行い空間に合わせた動きを促した.姿勢は抱っこ座位から箱椅子へ移行した.手元への注目が持続し,箱に合わせた手指や手関節の動きが見られた.遊びから離れてもセラピストの行動には注目し,視線や発声で気持ちの共有を図ることができていた.介入②知育玩具(X年8月~12月):押す・回す操作で光ったり音が鳴ったり等の玩具を選択し,操作による玩具の変化への気付きを促した.姿勢は箱椅子を使用し正面から関わった.セラピストの動きを見て興味を示すが,玩具自体を引っ張る,投げる行動をとっていた.そのため玩具を固定したところ手指や手関節で操作を楽しむようになり,部屋に準備しておくと自ら選択した.介入③物の操作(X年9月~X+1年2月):ブロックや輪を用い,前腕・肘・肩を動かす課題を行った.この頃には,動作誘導も受け入れるようになり,一緒に行うことでつける・はずす遊びを楽しむことが可能となった.玩具を椅子の前に置いていると自分で椅子に座ることができた.母親からも,遊べる玩具が増えたり,玩具を家族の所に持ってきて一緒に遊ぶ要求をしたり等の変化が聞かれた.
【考察】
 低出生体重児は早期からの感覚運動経験の乏しさにより,自己身体の認識が低く動きのバリエーションが低い.このことが,環境や他者に対する探索を阻害し適応のしにくさに繋がっていると考える.今回,事例の感覚運動経験に注目し,遊びを検討した.現在,物に合わせた操作や探索が増え,動作誘導も可能となり,遊びが持続しやすくなっている.今後は身辺動作の獲得に向けて介入を行っていきたい.