第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-2] ポスター:発達障害 2 

2024年11月9日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (大ホール)

[PI-2-6] 感覚処理特性に配慮した神経発達症児への関わり

小椋 弦 (上伊那生協病院 回復期リハビリテーション課)

【はじめに】弊院発達外来では他者との関わりや遊びの幅の広がりに困難さを抱える子どもが多く通院している.今回,神経発達症と診断された男児に対し作業療法(以下,OT)を展開していく中でスタッフとの関わりが増え,遊びの幅の広がりが見られたため事例に対する関わりについて考察し以下に報告する.尚,発表に際し,弊院所属の倫理審査委員会にて承諾を受け,事例の母から書面にて同意を得ている.
【事例紹介(作業療法評価時点をXとする)】4歳0ヶ月 男児 診断名:神経発達症 現病歴:X-2年,言葉が出ない,携帯への依存,落ち着きのない様子が見られ,弊院発達外来へ紹介となった.生育歴:生後8ヶ月 夫婦の離婚を期に転居し母と二人暮らし.生活歴:一人遊びが多く母との関わりは少ない.母子ともにタブレットでの動画視聴が多く,運動遊びはしない.月に1回,町の子育て支援教室への参加している.
【作業療法評価(生活年齢3歳3ヶ月)】<遠城寺式・乳幼児分析的発達評価>移動運動1歳6ヶ月-9ヶ月 手の運動0歳9ヶ月-10ヶ月 基本的習慣0歳10ヶ月-11ヶ月 対人関係1歳2ヶ月-4ヶ月 発語0歳8ヶ月-9ヶ月 言語理解1歳0ヶ月-2ヶ月 <感覚>前庭感覚,固有受容感覚は探究と過敏反応が混在し触覚は過敏,逃避反応あり.<遊び>遊具への興味が薄く,拒否を示す場面が多い.<対人交流>視線合わず,母から離れない.母が居なくなると癇癪になる.助けを求める時は母の側へ寄ることでアピールする.
【介入方針】母子ともにタブレットでの動画視聴が多く,運動遊びはしない生活環境であったため固有感覚・前庭感覚・触覚の感覚入力経験が少なくOTで提供される遊びは初めて触れる経験であったと考える.また,感覚過敏,逃避反応も見られ,遊びの幅も広がりにくいと考える.OT場面では事例が好む感覚を刺激量に配慮しながら入力し,徐々に苦手な感覚を入力していくことや身体接触から他者認識を促すことを狙い介入していく.
【介入(生活年齢3歳4ヶ月-4歳0ヶ月)】<1-4ヶ月>前庭感覚,固有受容感覚の入力に合わせ身体接触と声掛けで他者への気づきを促した.ジャンプする中で体の角度を変え前庭感覚の入力を強調した.母にも自宅で跳ぶことや体の向きの変化を楽しめる遊びを行うように提案した.<5-7ヶ月>事例からの要求を待つことと固有受容感覚を強調する遊びを中心に介入した.
【結果(生活年齢4歳0ヶ月)】<遠城寺式・乳幼児分析的発達評価>移動運動2歳0ヶ月-3ヶ月 手の運動1歳9ヶ月-2歳 基本的習慣1歳6ヶ月-9ヶ月 対人関係1歳4ヶ月-6ヶ月 発語1歳6ヶ月-9ヶ月 言語理解1歳4ヶ月-6ヶ月 <感覚>固有受容感覚,前庭感覚,触覚の感覚逃避反応が軽減した.<遊び>遊具への興味が増え,自ら遊ぶ場面が増えた.<対人交流>スタッフとのアイコンタクトやクレーンでの要求が増え他者認識が向上した.
【考察】Kanner,L.(1943)はASDのある人の感覚過敏性の特徴について感覚閾値の低さを挙げている.また,新奇場面においては予測困難な刺激が多いためそれらに対する嫌悪閾値が低いことも報告しており,事例についても同様の感覚処理特性であったと考える.事例が好む感覚を中心に入力しながら身体接触を増やしたことで内受容感覚の統合が図れ,感覚逃避反応が軽減したと考える.また,寺澤悠理(2014)らは内受容感覚に対する気づき(内受容意識)と島皮質が強く関連付けられており,島皮質は知覚・運動・注意などのモジュレーターである可能性が提唱されていると述べている.このことから内受容感覚の統合が図れたことで物や人への認識が高まり,遊びの幅の広がりやスタッフとの関わりに寄与したと考える.