[PI-3-7] 視覚関連機能への直接介入により学校での板書活動に改善がみられた事例
【はじめに】板書に困難さがある児童への評価・支援方法は体系化されていない. 黒板の内容をカメラで撮影する方法などの代償的アプローチ(野口ら, 2023)は提案されているが, 板書に関連する機能に対して直接介入を行い, 成果を挙げた報告は見当たらない. 今回, 板書に困難さを持つ児童に, 視覚関連機能の詳細な評価と, その結果に基づき機能的向上と板書への汎化を目指した介入を行った結果, 学校での板書の困難さが改善された事例を担当した. 本報告にあたり本人・保護者より口頭及び書面にて同意を得た.
【事例紹介】7歳1ヶ月の男児. 診断名は自閉スペクトラム症, ADHD疑い. 地域小学校の支援学級在籍. 保護者の主訴は, 「学校の板書に時間がかかり, 先生の書く速度に追いつけない」であった.
【初期評価】板書場面を想定した短文の書き写しを行なった結果, 「た.んぽぽ.の.花.を摘む」(.が黒板を確認した箇所)と黒板を4回確認する様子がみられた. 板書に関連する視覚関連機能を全般的に評価できる「WAVES」を実施したところ複数の項目でスコアの低下が見られ, 特に「数字みくらべ」では課題Ⅰの評価点は4点, 課題Ⅱは6点(6歳9ヶ月未満)と眼球運動の拙劣さが顕著だった. そこで眼球運動の質的側面を詳細に評価するために, 「SCCO4+」「DEM」「NPCテスト」を実施した. SCCO4+の追従眼球運動(以下paste), 衝動性眼球運動(以下saccade)では頭部の代償運動が目立ち, 評価点は1+だった. DEMのtestCではエラー数が16個, 所要時間が91.42秒(平均56.38)であり, 眼球運動の正確性・流暢性に問題があった. NPCテストでは, 輻輳近点が8cm(平均値5cm)で輻輳開散運動の苦手さが示唆された. 以上より, 輻輳開散運動・paste・saccadeの問題が板書の困難さに繋がっていると考えた.
【介入方法】視覚関連機能の質的向上を目指した介入に加え, 板書場面を想定した介入を実施することとした. 介入形態・頻度は, 個別OT(40分/回)を月5回の頻度で6ヶ月間実施した. 介入初期では, 本児の興味が高い視標を眼で追いかける活動・指標に上肢を合わせる活動を通して, 輻輳開散運動, paste, saccadeを促した. 介入後期では板書への汎化を目指し, 初期の活動に認知的負荷(板書に必要な図地弁別など)を加えた活動を行った. また, 形の恒常性・視覚的短期記憶・空間の捉えを高めるため, 向きやサイズが不規則な漢字カードを壁に貼り, 手元の漢字プリントと見比べてカードを選ぶ活動も行った.
【結果】介入後, 「NPCテスト」は, 輻輳近点が5cmと改善された. 「SCCO4+」では, pasteとsaccadeがともに3+へと向上し, 頭部の代償運動が狭まった. 「DEM」のTestCでは, エラー数が5個, 所要時間が80秒(平均56.38)であり, 眼球運動の正確性・流暢性が向上した. WAVESの「数字みくらべ」でも課題Iの評価点は9点(7歳3ヶ月), 課題IIは10点(7歳9ヶ月)と大幅な向上が確認できた. 板書を想定した短文の書き写しでは「ひまわりの花.がかれる」と黒板を確認する様子は1回に減少し, 所要時間も短縮した. 保護者からも「学校でも問題なく板書できるようになった」との報告があった.
【考察】京都府作業療法士会特別支援教育OTチームは, 板書の問題に関連する視覚関連機能として「眼球運動」「図地判別」「短期記憶」「空間の位置関係」を挙げている. 本事例においても, これらの4要素に焦点を当てた介入により板書が改善されたことから, 板書が困難な児童への評価・介入における重要な4つの指標であることが示唆された. また, 代償的アプローチのみではなく機能的アプローチの有効性も示唆されており, 両面からのアプローチが重要であることが考えられる.
【事例紹介】7歳1ヶ月の男児. 診断名は自閉スペクトラム症, ADHD疑い. 地域小学校の支援学級在籍. 保護者の主訴は, 「学校の板書に時間がかかり, 先生の書く速度に追いつけない」であった.
【初期評価】板書場面を想定した短文の書き写しを行なった結果, 「た.んぽぽ.の.花.を摘む」(.が黒板を確認した箇所)と黒板を4回確認する様子がみられた. 板書に関連する視覚関連機能を全般的に評価できる「WAVES」を実施したところ複数の項目でスコアの低下が見られ, 特に「数字みくらべ」では課題Ⅰの評価点は4点, 課題Ⅱは6点(6歳9ヶ月未満)と眼球運動の拙劣さが顕著だった. そこで眼球運動の質的側面を詳細に評価するために, 「SCCO4+」「DEM」「NPCテスト」を実施した. SCCO4+の追従眼球運動(以下paste), 衝動性眼球運動(以下saccade)では頭部の代償運動が目立ち, 評価点は1+だった. DEMのtestCではエラー数が16個, 所要時間が91.42秒(平均56.38)であり, 眼球運動の正確性・流暢性に問題があった. NPCテストでは, 輻輳近点が8cm(平均値5cm)で輻輳開散運動の苦手さが示唆された. 以上より, 輻輳開散運動・paste・saccadeの問題が板書の困難さに繋がっていると考えた.
【介入方法】視覚関連機能の質的向上を目指した介入に加え, 板書場面を想定した介入を実施することとした. 介入形態・頻度は, 個別OT(40分/回)を月5回の頻度で6ヶ月間実施した. 介入初期では, 本児の興味が高い視標を眼で追いかける活動・指標に上肢を合わせる活動を通して, 輻輳開散運動, paste, saccadeを促した. 介入後期では板書への汎化を目指し, 初期の活動に認知的負荷(板書に必要な図地弁別など)を加えた活動を行った. また, 形の恒常性・視覚的短期記憶・空間の捉えを高めるため, 向きやサイズが不規則な漢字カードを壁に貼り, 手元の漢字プリントと見比べてカードを選ぶ活動も行った.
【結果】介入後, 「NPCテスト」は, 輻輳近点が5cmと改善された. 「SCCO4+」では, pasteとsaccadeがともに3+へと向上し, 頭部の代償運動が狭まった. 「DEM」のTestCでは, エラー数が5個, 所要時間が80秒(平均56.38)であり, 眼球運動の正確性・流暢性が向上した. WAVESの「数字みくらべ」でも課題Iの評価点は9点(7歳3ヶ月), 課題IIは10点(7歳9ヶ月)と大幅な向上が確認できた. 板書を想定した短文の書き写しでは「ひまわりの花.がかれる」と黒板を確認する様子は1回に減少し, 所要時間も短縮した. 保護者からも「学校でも問題なく板書できるようになった」との報告があった.
【考察】京都府作業療法士会特別支援教育OTチームは, 板書の問題に関連する視覚関連機能として「眼球運動」「図地判別」「短期記憶」「空間の位置関係」を挙げている. 本事例においても, これらの4要素に焦点を当てた介入により板書が改善されたことから, 板書が困難な児童への評価・介入における重要な4つの指標であることが示唆された. また, 代償的アプローチのみではなく機能的アプローチの有効性も示唆されており, 両面からのアプローチが重要であることが考えられる.