第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-3] ポスター:発達障害 3

2024年11月9日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (大ホール)

[PI-3-8] 児童発達支援事業所での自閉スペクトラム症児に対する遊びを基盤としたピア介在プログラムの効果

単一事例研究

花木 陽一1, 福澤 友輝1, 津路 裕久2 (1.児童発達支援デイサービス ファミリアキッズ, 2.株式会社S&S)

【はじめに】自閉スペクトラム症(ASD)児のソーシャルスキル向上には,仲間(ピア)を介在した介入(Peer Mediated Intervention ; PMI)の高い効果が示されている(Chang et al,2016).しかし,未就学児での研究は少なく方法論は確立されていない.本研究の目的は,未就学のASD児に対するPMIの効果を検証することである.本研究に先立ち,対象児の保護者に書面にて同意を得た.発表者とCOI関係にある企業等はない.
【方法】期間:X年5月〜10月に行った.対象:保育所と併用して児童発達支援事業所に通うASDの4歳9ヶ月(X年5月時)の男児(A児)とした.新版K式発達検査(5歳0ヶ月時)の発達年齢は,認知・適応領域(4歳7ヶ月),言語・社会領域(4歳1ヶ月)であった.研究デザイン:ABデザインとし,A期をベースライン期(X年5〜7月),B期を介入期(X年8〜10月)とした.A期では,約3時間の集団療育を週3回,うち約30分間の個別療育を2週に1回の頻度で実施した.集団療育では,8名程度での設定療育,制作療育,自由遊びを実施した.個別療育では,作業療法士(OTR)が遊びを通じたコミュニケーション指導を実施した.B期では,通常の集団療育に加え個別療育をPMIに変更した.介入手続き:PMIは全6回実施した.ピアにはA児よりもコミュニケーション能力の高い児を選んだ.最初の2回はB児・C児と実施し,3回目以降はA児との関係性が最も良好だったD児と実施した.D児はA児と同年齢のASDの女児である.ASD児への遊びを基盤とした介入では,子ども主導であることや象徴遊びを用いることでの成果が示されている(Lucía et al,2022).介入では,A児とピアに,粘土,ブロック,ままごと,砂遊びの中から自由に遊びを選択してもらった.OTRはピアとのやり取りをA児に見せつつピアとの象徴遊びのやり取りが成立するよう仲介した.効果判定:従属変数を, 集団療育の自由遊び(約40分間)の中でのA児と他児との関わりとし,録画を見て週1回の頻度で記録表に記載した.他児との関わりとは,玩具の受け渡し,他児の真似,玩具の見せ合いと定義し,拒否行動や児童指導員から促されて行った行動は含めなかった.介入前後に,母親との面接により,カナダ作業遂行測定(COPM),Vineland-Ⅱ適応行動評価尺度を実施した.
【結果】各期における他児との関わり回数の平均値は,A期で1.5回,B期で2.7回であった.二標準偏差帯法では,B期を通して有意な増加があったのは1日のみであった.二項検定(有意水準p<0.05)では,p=0.25となり2期間での有意差は認められなかった.COPM(目標:友達と仲良く関わる)は,遂行度2→4,満足度2→5となった.Vineland-Ⅱの粗点は,コミュニケーション領域124→127,社会性領域83→89となった.行動面では,A児は友達の名前を言うようになり,「〇〇ちゃんと仲良し」との発言が聞かれた.家庭では,外出先で他の子どもと遊ぶ様子が見られたとの報告を受けた.
【考察】構造化された環境下で,OTRが仲介しながらピアと遊ぶという経験は,A児にとって仲間と関わる動機づけやソーシャルスキルの向上に効果があったと考えられる.しかし,通常の集団療育と比較して統計上の有意差は現れなかった.自由遊びでは,玩具の種類,子どもや児童指導員の人数の変動が従属変数の生起頻度に影響を与えた可能性がある.今後は,複数例への実施や従属変数の定義の見直し等により,精度の高い効果判定を行う必要がある.
【結論】ASD児にとって,幼年期の社会的相互作用の障害は,成人してからの予後の重要な予測因子である(Howlin et al,2013).児童発達支援に関わる作業療法士にとって,仲間関係への支援を行いその効果を検証していくことは重要である.