[PI-4-1] 共同注意が向上した自閉スペクトラム症児の経過報告
社会的スキルが拡大した事例
【序論】自閉スペクトラム症(以下ASD)では社会的認知の困難さがあるとされ,未就学期の介入として他者と情報を共有する能力である共同注意に着目した報告は多く見られる.先の報告では先生の一斉指示に注目出来ず,個別の声掛けを要する学童期ASD児に対し,体育への参加を目標に共同注意へのアプローチを実施.共同注意の向上及び集団参加への影響を認めた事例について報告した.しかし,学童期の個別支援により共同注意が向上した事例への経時的変化の報告はほとんどなく,長期的な見通しが困難であった.そこで,学童期での共同注意の向上はどのように社会的スキルの獲得へ繋がるのか,個別支援の重要性を検討する.本症例ではS-M社会生活能力検査,母親へのアンケート・面接により,質的な変化及び学校や日常生活での状況を聴取を行った.なお,報告に際し書面・口頭にて対象者家族に同意を得ており,当院での倫理審査委員会での承認を得ている.開示すべきCOIはない.
【事例紹介】診断名:ASD,発達性協調運動障害,言語障害.7歳0か月の男児.体育への参加を目標に共同注意への介入を開始した.介入後の共同注意の様子は,合視や情動共有,指差し理解の向上を認めた.伴って,詳細な模倣や遊びの中で役割転換が可能になり,相手の顔を見て対話する理解が得られた.
【初期】《S-M社会生活能力検査》生活年齢(7:0)社会生活年齢(4:8)身辺自立(4:4)移動(6:0)作業(5:2)意思交換(4:4)集団参加(4:4)自己統制(5:0)
《学校及び介入での様子》集団参加では,状況理解をする代償手段として周りの行動を参照し,少しの声掛けで体育への参加が可能であった. だが,ドッチボールなどのルールのある遊びには困難さあり.対人交流においても, 本人の楽しめる展開は限定しており,1人遊びになる場面も多々みられた.また,同級生との対話には定型文や支援員が見本の提示を要した.
【経過】担当を変更しながら当院の外来OTを継続し,ルール遊びなどの集団生活で生じる課題に対して介入を行った.
【最終】《S-M社会生活能力検査》生活年齢(9:5)社会生活年齢(6:1)身辺自立(5:1)移動(8:1)作業(6:10)意思交換(5:5)集団参加(6:0)自己統制(6:2)
《学校及び介入での様子》集団参加では,体育以外でも支援員が傍にいる程度で参加が可能になった. 対人交流では,休み時間は誘ってもらって同級生と遊んでおり,ドッチボールなど簡単なルール遊びは参加可能になった.だが,時折何も言わずに去ってしまう場面は継続した.対話においては,一方的であるが見本の提示がなくとも自ら相手に質問が可能になった.
【考察】共同注意が向上したASD児において,長期的経過の中で社会的スキルに拡大がみられた.S-M社会生活能力検査での経時的変化は,定型発達児であれば年齢相応に上昇する相関があるとされる.一方で,ASD児は意思交換・集団参加・自己統制が低い傾向にあり,背景には理解ができず遂行できない状況も多いとされる.その中で本症例の社会生活年齢は定型発達児と同等の変化がみられた.この要因として,共同注意の向上により他者から提示された事象への注目が可能になり,状況理解への困難さが減少したと考えられる.また,体育への参加により,他者の行動を参照しながら周りと同じ行動をとれるようになったことも挙げられる.これらの結果から,学童期ASD児の社会的スキルが拡大して行く為に,共同注意の向上を目的とした介入が有効である可能性が示唆された.
本報告の限界は,一事例での検討であり,共同注意と社会的スキルの関係について検討するには情報が不十分な点が挙げられる.今後は症例数を重ねることで,学童期における共同注意への介入が,社会的スキルへ及ぼす影響について検討して行くことが望ましい.
【事例紹介】診断名:ASD,発達性協調運動障害,言語障害.7歳0か月の男児.体育への参加を目標に共同注意への介入を開始した.介入後の共同注意の様子は,合視や情動共有,指差し理解の向上を認めた.伴って,詳細な模倣や遊びの中で役割転換が可能になり,相手の顔を見て対話する理解が得られた.
【初期】《S-M社会生活能力検査》生活年齢(7:0)社会生活年齢(4:8)身辺自立(4:4)移動(6:0)作業(5:2)意思交換(4:4)集団参加(4:4)自己統制(5:0)
《学校及び介入での様子》集団参加では,状況理解をする代償手段として周りの行動を参照し,少しの声掛けで体育への参加が可能であった. だが,ドッチボールなどのルールのある遊びには困難さあり.対人交流においても, 本人の楽しめる展開は限定しており,1人遊びになる場面も多々みられた.また,同級生との対話には定型文や支援員が見本の提示を要した.
【経過】担当を変更しながら当院の外来OTを継続し,ルール遊びなどの集団生活で生じる課題に対して介入を行った.
【最終】《S-M社会生活能力検査》生活年齢(9:5)社会生活年齢(6:1)身辺自立(5:1)移動(8:1)作業(6:10)意思交換(5:5)集団参加(6:0)自己統制(6:2)
《学校及び介入での様子》集団参加では,体育以外でも支援員が傍にいる程度で参加が可能になった. 対人交流では,休み時間は誘ってもらって同級生と遊んでおり,ドッチボールなど簡単なルール遊びは参加可能になった.だが,時折何も言わずに去ってしまう場面は継続した.対話においては,一方的であるが見本の提示がなくとも自ら相手に質問が可能になった.
【考察】共同注意が向上したASD児において,長期的経過の中で社会的スキルに拡大がみられた.S-M社会生活能力検査での経時的変化は,定型発達児であれば年齢相応に上昇する相関があるとされる.一方で,ASD児は意思交換・集団参加・自己統制が低い傾向にあり,背景には理解ができず遂行できない状況も多いとされる.その中で本症例の社会生活年齢は定型発達児と同等の変化がみられた.この要因として,共同注意の向上により他者から提示された事象への注目が可能になり,状況理解への困難さが減少したと考えられる.また,体育への参加により,他者の行動を参照しながら周りと同じ行動をとれるようになったことも挙げられる.これらの結果から,学童期ASD児の社会的スキルが拡大して行く為に,共同注意の向上を目的とした介入が有効である可能性が示唆された.
本報告の限界は,一事例での検討であり,共同注意と社会的スキルの関係について検討するには情報が不十分な点が挙げられる.今後は症例数を重ねることで,学童期における共同注意への介入が,社会的スキルへ及ぼす影響について検討して行くことが望ましい.