第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-4] ポスター:発達障害 4

2024年11月9日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (大ホール)

[PI-4-2] 自閉症スペクトラム児の偏食に関わる研究動向

須田 あゆみ1,2, 笹田 哲3 (1.神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科博士前期課程, 2.児童発達支援事業所 Cosmoリバシティ, 3.神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科)

【はじめに】自閉症スペクトラム(以下,ASD)児への支援の必要性と多様性は近年高まっており,その中でASDの偏食の問題は多領域からの研究報告がなされている.作業療法ではASD児の食に関する行動を測定する尺度の開発(中岡和代;2019)など評価法の開発や調査研究が近年増えているが,ASDの偏食の関わりの方針として他領域ともに統一された見解は示されていない.本研究の目的は,国内のASDの偏食に関する文献研究を行うことで研究領域および研究動向を整理し,現状と課題を検証することで,より具体的な評価方法や介入方法の検討へ役立てることである.
【方法】検索方法:医学中央雑誌刊行会の医中誌Web版,メディカルオンライン,国立情報学研究所のCiNii Researchを用いた.検索日時は2024年2月6日18時14分で,検索期間は指定せず,検索語は「食行動の偏り」または「偏食」とAND検索で「自閉症スペクトラム」とし,総説や解説,会議録は除外し原著論文のみを用いた.また偏食や食行動が研究結果の因果関係に関係ないものは除外した.分析方法:各文献を雑誌掲載年,研究領域,研究方法別に集計し一覧表を作成し整理した.領域は筆頭者の所属から小児科・医師,作業療法,歯科,教育・福祉,看護・公衆衛生,栄養の6項目に分類した.
【結果】検索された原著論文の総数は102件であり,重複論文や除外対象の論文を除くと対象となる原著論文は62件であった.改正児童福祉法の施行があった2012年より前は11件であり,2012年以降は51件で約5倍となった.領域別では小児科・医師が38件,作業療法が7件,歯科が7件,教育・福祉が4件,看護・公衆衛生が4件,栄養が2件であり,研究方法別では,症例報告が32件,調査研究が21件,評価法の開発研究が4件,事例研究が3件,NRCTが1件,システマティックレビューが1件であった.領域では小児科・医師,作業療法,歯科が多く,研究方法は症例報告と調査研究が多い傾向であった.症例報告は小児科・医師が29件で圧倒的に多く,偏食が要因のビタミン類の欠乏症や栄養障害,それに付随する内科的疾患などの報告であった.調査研究の多くは口腔機能や具体的な食品の種類および数に着目したものや,ASDの特徴である感覚の偏りやこだわり等の認知面に着目したものが多く見られた.評価法の開発研究は3件が作業療法の領域であった.事例研究は少数だが,教育・福祉,看護・公衆衛生および栄養領域にて給食や病院食などの食事場面のある環境での直接的な食事指導や介入事例が散見された.
【考察】2012年の改正児童福祉法の施行により障害児支援が強化され,ASD児の偏食に関する相談窓口はそれ以前に比べ広がっていると考えられる.近年の調査研究によりASDの偏食は嗜好の問題ではなく医学的介入が必要不可欠であることが明らかとなっており,今後は栄養障害への経時的,量的な調査や食事に対する直接的な介入研究および症例報告など具体的な治療方法の確立,指導方法の統一化などが課題となっていると考えられる.一般的に食事に関する生活障害への解消のニーズは高く,特にASD児の偏食は保護者の心身の負担が強い傾向にある(宮嶋愛弓;2022).作業療法では,偏食や食行動の偏りに対し感覚統合理論等を用いて感覚面や運動発達面,認知面,環境面などをASDの疾患特徴を理解しながら食事という生活動作の一部として介入することが可能であり,また,医学的視点だけではなく家庭や学校といった環境面への視点を持つことから他の領域との橋渡しの役割を担うことも可能ではないかと考える.※本研究では開示すべきCOIはない.