第58回日本作業療法学会

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ポスター

発達障害

[PI-4] ポスター:発達障害 4

Sat. Nov 9, 2024 2:30 PM - 3:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PI-4-4] 自閉スペクトラム症児における小脳の灰白質体積および皮質厚の異常について

MRIによる研究

花家 竜三, 大塚 恒弘, 坂口 雄哉, 橋本 絢大 (兵庫医科大学 リハビリテーション学部作業療法学科)

【はじめに】小脳は,自閉スペクトラム症(ASD)における神経病理学的な異常が最も多く報告されている脳部位の1つである.また,これまで複数の脳イメージングの研究により,ASDにおける小脳の構造的・機能的な異常が報告されている.しかしながら,小脳内の領域ごとの灰白質体積および皮質厚の異常を報告している研究は非常に限られている.
【目的】本研究では,脳画像を解析することにより,ASD児における小脳内の領域ごとの灰白質体積・皮質厚を計測し,定型発達児との違いを明らかにし,運動・実行機能,コミュニケーション能力との関連を検討することを目的とする.
【方法】本研究では,Autism Brain Imaging Data Exchange (ABIDE) (http://fcon_1000.projects.nitrc.org/indi/abide/)からSan Diego State Universityのデータを使用した.ABIDEは,複数の大学および研究機関から集められた脳画像および行動・認知検査結果の国際的なデータベースで,自由に使用が可能であり,これまで多くの研究において使用されている.データの使用は,それぞれの大学・研究機関の倫理委員会で承諾されている.本研究における対象者は,DSM-Ⅳ-TRもしくはⅤを用いてASDの診断を受けたIQ70以上のASD児47名(男児39名,女児8名,7歳−18歳)および定型発達児(TD)47名(男児39名,女児8名,8歳−17歳)であった.また,対象者の運動機能(視覚運動統合機能)・実行機能・社会的コミュニケーション能力は,それぞれBeery-Buktenica Developmental Test of Visual-Motor Integration(VMI),Behavior Rating Inventory of Executive Function(BRIEF),Social Responsiveness Scale 2(SRS2)を用いて評価されていた.脳画像解析は,「CERES」(https://www.volbrain.net/)を用いた.「CERES」は,自動的かつ正確に小脳を12領域に分割し,各領域の灰白質体積・皮質厚を算出することができる解析手法である.算出された各領域の灰白質体積・皮質厚を2群間でt検定により比較した. また, 有意差が認められた領域の灰白質体積と各検査得点との間でピアソンの相関分析を行った.
【結果】TD群と比較すると, 右IV・VIIIB・IX,左CrusIおよび左右Xにおける灰白質体積がASD群において有意に減少していることが認められた.皮質厚は,左VIおよび左右CrusIにおいてASD群で有意に減少していた.灰白質体積と各検査得点との相関分析の結果,左CrusIの灰白質体積とBRIEFの総合得点との間に有意な正の相関(r = 0.446, p = 0.012),左右Xの灰白質体積とSRS2の総合得点との間に有意な負の相関がそれぞれ認められた(右:r = −0.383, p = 0.030 左:r = −0.462, p = 0.008).
【考察】本研究では,TD群と比較すると,ASD群では,IV・VI・CrusI・VIIIB・IX・Xなどの主に小脳後部において,灰白質体積および皮質厚が減少しているのが認められた.過去の脳イメージングの研究から,VI・CrusI は,主に言語や実行機能などの認知機能,またIV・VIIIB・IX・Xは,運動機能に関与していることが明らかにされている.特にIX・Xは,虫部垂や片葉小節葉に相当し,バランスや眼球運動に重要な部位である.ASDでは,バランスや眼球運動の問題があることはよく知られている.相関分析の結果,Xと社会的コミュニケーション能力の指標であるSRS2の得点との間に有意な相関が認められた.つまり,本来は運動を担う部位と社会的コミュニケーション能力との間に関連が認められたことになるが,この結果から,ASDの社会的コミュニケーションの問題の背景には,眼球運動不全などの運動の問題があることが推察される.