第58回日本作業療法学会

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ポスター

発達障害

[PI-4] ポスター:発達障害 4

Sat. Nov 9, 2024 2:30 PM - 3:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PI-4-6] 境界知能の子どもを持つ保護者の小学校就学先決定に関する意思決定プロセス

複線径路等至性アプローチを用いた一事例の分析

畠山 久司, 猪股 英輔, 佐々木 清子, 坂本 俊夫 (東京保健医療専門職大学 リハビリテーション学部作業療法学科)

【はじめに】保護者は,就学先を決定するまでに様々な葛藤を抱えており,特に義務教育が開始する小学校への就学先決定の際には多くの葛藤を抱えることになる.境界知能の子どもの利用する教育形態は,小学校の頃から通常学級,通級指導教室の併用,特別支援学級という3つの選択肢が混在するため,境界知能の子どもを持つ保護者特有の葛藤が生じると考える.さらに,小学校就学先の決定においては,長い就学準備期間を要しながら自己決定するため,時間経過の中での意思決定プロセスの解明が不可欠だが,そのプロセスは明らかではない.
【目的】境界知能の子どもを持つ保護者が,小学校就学先を決定する際にどのようなプロセスで意思決定を行なっているのかについて,複線径路等至性アプローチを用いて明らかにすることである.
【方法】対象は,就学前に境界知能と判断された児(小学校1年生,男児,IQ83,就学先は通常学級と通級指導教室の併用,父親と母親の3人暮らし)を持ち,かつ就学相談を利用した後に小学校就学先を決定した母親1名(50代)である.調査方法は,半構造化面接を2回実施した.等至点を「保護者が小学校就学先を意思決定した」と設定し,初回面接時に,小学校就学先の決定までの径路について聴取し,複線径路等至性モデリング図を作成した.2回目の面接時に,トランスビュー的飽和と等至点的飽和に至るまで対象者と面接を繰り返し,TEM図を完成させた.本研究は,所属先の研究倫理審査委員会の承認を得て実施している.
【結果】母親は,年中から周囲の子どもとの違いを感じるようになり,将来に対する不安を生じさせていた.しかし,父親のサポートや保育士・リハビリテーション専門職の母親への関わりが,児の成長や長所を実感させていた.そして母親は,児に必要かもしれないものは受け入れたいと感じており,就学相談の申し込みに至った.就学相談当初は,通常学級への就学を希望するが,学校生活に対する不安や,信頼できる専門職や母親からの助言により通級指導教室の利点を実感し,通級指導級室のイメージが肯定的に変化していった.その結果,通級指導教室を併用することで子どもの更なる成長を期待すると共に,子どもの居場所となることを確信することに繋がり「保護者が小学校就学先を意志決定した」に至った.父親の協力(心理的サポートや子育ての方向性の共有)は常に等至点に向かう助力になっていたが,子育ての価値観の異なる母親との関わりや,同級生の子どもやその母親との比較は,等至点に向かうことを阻害していた.母親の意思に沿った就学先の判定結果が教育委員会より通知され,セカンド等至点である「母親は就学相談の判定結果に同意する」に至った.その後,目標の領域である「就学に希望が持てる」に向かう経路が描かれた.
【考察】就学相談前までは,作業療法士を始め母子に関係する様々な職種の関わりが,母親の児への成長や長所への気づきに関与していた.そして,児の成長と居場所が最優先であると価値・信念が変化することで,就学相談の申し込みに繋がっていた.一方で,就学相談期間中は,信頼できる専門職との関わりが等至点に向かう助力になっており,作業療法士は,発達支援や家族支援などを通じて家族との信頼関係を構築すると共に,他機関との連携を図ることが重要だと考えられた.また,家族の協力の重要性や母親間の交流の利点と欠点も明らかとなり,作業療法士は,家族全体を捉えることや母親の信頼できる相談先を把握することも求められると考えられる.今後,事例数を増やして,意思決定プロセスの更なる解明を図っていく予定である.