第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-4] ポスター:発達障害 4

2024年11月9日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (大ホール)

[PI-4-7] 巡回相談支援における保育士の支援ニーズと訪問職種の実態調査

宍戸 聖弥1, 赤堀 将孝1, 亀山 一義1, 名越 恵美2, 高田 哲3 (1.はくほう会医療専門学校, 2.岡山県立大学, 3.神戸市総合療育センター)

【序論】発達障害のある子どもへの対応には多くの保育士が悩んでいる.木曽は約8割が発達障害傾向のある子どもの保育に困難を感じていたと報告している(木曽陽子,2014).また,2割以上の保育従事者がその業務の中でバーンアウトに陥っていた報告もある(齋藤恵美,2009).作業療法士(以下OT)はしばしば保育園・こども園を訪問して相談支援を行うが,保育士の精神的ストレスまで含めて調査した研究はほとんどない.本研究よりOTの役割拡大に向け,保育士との協働及び専門性に基づいた支援への示唆を得ることができると考える.
【目的】支援実態を通じて保育士が抱きやすい困難感や支援ニーズを明らかにすること,保育士が陥りやすい精神状態を明らかにすること,巡回相談に関わる職種の実態を調査することの3点とした.
【方法】対象は兵庫県の保育園及びこども園(以下,園)に勤務する保育士免許のある者とし,回答者情報(園や経験年数等),困難感や支援ニーズ,巡回相談の頻度や職種,日本語版バーンアウト・アセスメント尺度(以下,BAT)を調査した.本研究は倫理審査委員会の承認を受けた上で実施した.対象者には文書で研究趣旨を説明し,同意を確認した上で回答を依頼した.
【結果】1579園に郵送した. 有効回答は686名(管理職35%,主任級33%,一般職27%,他5%)であった.経験年数は20年以上が42%,10年以上が31%,10年未満が27%であった.私立の園が82%で,母体は社会福祉法人が62%,次いで市町村が16%であった.96%の保育士の園に「診断はないが,気になる子ども」が在籍していた.BATのバーンアウトリスク水準に基づくと,「非常に高い群」の保育士が12%で,「高い群」の28%と合わせて全体の4割に上った.バーンアウトのリスク群は「診断のない気になる子どもへの対応」や「保護者対応」,「職員不足」に困難感を感じており,巡回相談員に対し「困った行動や不適応行動への対応策(93%)」や「保護者との連携(53%)」に関する具体的な助言を求めていた.自由記述では「集団場面での対応」や「保護者対応」に関する支援ニーズが多く,一部の管理職からは保育士のメンタルケアを望む声も挙げられた.過去3年間の巡回相談で来園した専門職は心理職が50%と最多で,次いで看護師・保健師(28%),言語聴覚士(15%),OT(14%)の順であった.OTの専門性に対する認識では,約60%の保育士が身体および発達領域の認識を持っていたが,精神領域は11%と最も低く,「OTのことがあまりわかっていない」を選択した保育士は26%に上った.
【考察】バーンアウトリスクが高い保育士が4割を超えていた.子どもに対する支援と同時に,保育士のメンタルケアの必要性が高いと考えられた.特に,保育士が困難感を抱く「診断のない子どもへの対応」や「保護者対応」については巡回相談時に具体的に聴取し,介入する必要がある.最多の支援ニーズであった「困った行動や不適応行動への対応策」については,実際に園で行うことが可能な支援方法を検討する必要がある.また,巡回相談員自身が保護者と保育士の間に立ち,両者の連携をサポートすることで,困難感の軽減に繋げられる可能性がある.「職員不足」については,巡回相談の場で直接的に関わることは難しいが,保育士の心身の健康管理により注意を払い,バーンアウトからの離職を予防していく必要がある.OTは子どもだけでなく保育士の精神面も支援できる専門性を有しているが,巡回相談自体の機会が少なく,心身の両方に関わることができる専門性への認識も低い.今後は専門性の周知とともに,他の専門職との連携や保育現場での支援を進める必要があると考えられる.