第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-4] ポスター:発達障害 4

2024年11月9日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (大ホール)

[PI-4-8] 支援学級在籍児の運動への参加促進に向けた取り組み「できるがみえる」について

運動有能感に関するアンケート調査

松田 大輔1, 清水 健2, 勝原 勇希3 (1.合同会社くうねるあそぶワークス, 2.訪問看護ステーションつみき, 3.森ノ宮医療大学 総合リハビリテーション学部作業療法学科)

【はじめに】スポーツ庁による「令和5年度全国体力・運動能力,運動習慣等調査結果」から,小中学生における運動習慣の二極化が進んでおり,体力の向上を含む運動時間と習慣の改善が必要とされている.今回A市スポーツ振興課から,障がい児の運動への参加促進に向けた取り組みについての事業(以下,できるがみえる)の委託を受けた.プログラムの作成と実施を担い,参加者に対して運動有能感を含むアンケート調査を通し,運動に対する意識の変化を調査した.アンケート結果と取り組み内容も含めて,ここに報告する.本報告は参加者及び保護者の同意を得ている.また開示すべきCOIはない.
【目的】作成したプログラムの実施を通した,運動に対する意識の変化への影響を明らかにすることを目的とする.
【方法】対象はA市の小学校支援学級(自閉症・情緒障害学級)に在籍する児童で,診断名の有無は問わない.応募のあった26名から不参加児童3名を除いた6~10歳の23名(8.5±1.3歳)に対してプログラムを実施.全4回に出席した15名(8.4±1.2歳)に対してアンケート調査を行った.
介入は3ヵ月間で計4回各回90分実施.10名前後に分け2部制とした.内容は小学校の体育で頻度の高い「投げる」「蹴る」「跳ねる」の3種類を各回実施し,各種目に「幼児期運動指針」(文部科学省2012)で示されている36の基本動作の要素を加えて作成.プログラムの中でストラテジーに関する意見交換を行う機会を作るように設定した.
アンケートは運動に関する意識に対して,運動有能感尺度(岡沢ら1996)を用いて運動有能感を5段階の順序尺度で開始前と終了時に実施.評価結果を前後で比較するため,有意水準を5%未満としたWilcoxonの符号付順位検定を用いた.合わせてプログラムに関する自由回答のアンケート調査も行った.
【結果】アンケートは発送数15回答数12(有効回答率80%).運動有能感は身体的有能さの認知,統制感,受容感に4項目ずつの3因子に分類.身体的有能さの認知は開始前が2.2±1.1終了時2.8±1.1で利得0.6(2項目でp<0.05).統制感は開始前が3.1±1.2終了時3.8±0.9で利得1.0(3項目でp<0.05).受容感は開始前3.1±1.1終了時3.5±1.0で利得0.7(有意差なし).
自由回答のアンケート調査では「簡単すぎず難しすぎず,子供が楽しみつつ悔しいと思っていたようでとても良い時間になりました」「最初は嫌がるかなと不安でしたが,1回行ってみるととても楽しかったようで,苦手だった運動にも少し自信がつき,公園に毎日遊びに行くようになりました」「ママさんや友達に逃げる時はこうやって体を動かすと良いと説明して披露していました」とのコメントが保護者から得られた.
【考察】運動有能感の統制感における向上が示唆された.統制感は「練習すれば,努力すればできるようになる」という項目で構成されており,自由回答のアンケート結果も合わせると,プログラムとして36の基本動作に基づいた難易度設定による見立てが明確な点と,ストラテジーを考え出す過程を経たことによる手立てが明確な点が,有効であったのではないかと考えられる.
運動能力や運動技能の低い子どもの運動有能感を高めていくために,現在できない技術でも,努力や練習によってできるようになるという統制感は重要であると述べている(伊藤1987).障がい児の運動への参加を促進するためには,技術的な習熟度に先駆けて,運動有能感の統制感を育む介入の必要性が示唆された.