第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-5] ポスター:発達障害 5

2024年11月9日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (大ホール)

[PI-5-2] 重症心身障害児者の活動を提供する支援者の悩みと作業療法士の視点

熊谷 有加, 浅井 明美, 鈴木 里枝, 天野 美乃里 (聖隷三方原病院聖隷おおぞら療育センター リハビリテーション部)

【はじめに】
重症心身障害児者(以下重症児者)の作業において,重症児者は「やりたい」という能動的な気持ちが自ら表出されることが少なく,支援者が能動的な気持ちを汲み引き出す必要がある.重症児者施設聖隷おおぞら療育センター(以下おおぞら)では,利用者が満足感や達成感を得るもの,能動的になれる作業を「生きがい活動(以下活動)」として生活支援員(以下職員)が提供しており,作業療法士(以下OT)も活動に介入している.重症児者に適した興味関心を測る評価尺度はなく,おおぞらではVineland適応行動尺度を参考に作成された「適応行動評価」と「興味関心の手操作の階層」を使い評価している.「興味関心の手操作の階層」とは,何に興味関心を持って手を動かしたかの尺度であり,「特定の感覚を好んで操作する」「変化が起こることを期待して操作する」等の項目がある.ここでいう「操作」とは手を動かす意味である.これらの評価から興味関心の高い活動を提供するが,職員は活動内容や利用者の行動の解釈に難渋していた.そこで,職員に質問紙調査を行いその問題について検討した.
【目的】
職員が「興味関心の手操作の階層」を使い評価し活動を行う時の問題について明らかにすること.
【方法】
対象は,当施設の活動に慣れている職員27名.「活動を行う時に悩むことは何か」について自由記載にて調査を行い回答をKJ法にて分析した.本報告に対し対象者には同意を得ている.
【結果】
職員の経験年数の平均は15.3年であった.調査の結果を(1)運動障害や感覚の特性(2)適応行動評価から興味関心を探ること(3)活動時の表出の解釈(4)職員側の問題の4つの問題にまとめ,関係を分析した.(1)の問題では,活動時の姿勢や,好む感覚遊びに固執し興味関心が拡がらないといった障害特性の問題が挙げられた.(2)の問題では,日常の手の動きから興味関心を探れないこと,手の発達段階と知的発達段階が同じではないこと,利用者の経験の影響,興味関心の階層の基準の曖昧さの問題が挙げられた.(3)の問題では,意図した行動かどうかの解釈,活動での反応の評価の問題が挙げられた.(4)の問題では, 職員が活動をうまくできない思い,時間の確保,道具の準備,計画力,という問題が挙げられた.この結果から,重症児者の特性により興味関心を探ることや,活動時の表出の解釈が難しいことが主要な問題であった.
【考察】
職員は,自身の関わりよって反応が異なる重症児者の特徴を理解しており,職員自身の振る舞いが利用者の活動に影響を与えないように配慮して活動を提供していた.しかし,その関わりでは利用者が感覚に固執する活動になってしまうことや自己とモノとの関係理解が乏しい利用者にとっては支援者の存在がなければ気づきがないこと等の問題を生み,環境面における視点が必要だと考えた.しかし,現在の興味関心の手操作の階層の基準では,職員自身や場所,時間といった環境面は考慮されていなかった.そこで,重症児者の反応や行動の解釈において,重症児者側の評価だけではなく人-環境-作業の相互関係を分析するPEOモデルを使用すると,環境である職員自身の評価もでき,職員にとっても分かりやすくなると考えた.また,個別作業療法場面において重症児者にモデルは当てはめにくいと感じていたが,活動時の反応の解釈には活用できるのではないかと考えた.今後はOTの視点から多職種と評価を共有し,重症児者にとって目的や価値のある作業活動を提供していきたい.