第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-5] ポスター:発達障害 5

2024年11月9日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (大ホール)

[PI-5-3] 重症心身障害児者施設での呼吸ケアサポートチームにおける作業療法士の役割

藤田 瑠璃花 (重症児・者福祉医療施設ソレイユ川崎)

はじめに】
 日本においては,2008年に作業療法士(以下OT)による呼吸器リハビリテーション料の算定,2010年には診療報酬加算ができるようになり,呼吸ケアサポートチーム(以下RST(respiratory support team))の活動もクローズアップされるようになった.しかし重症心身障害児者施設におけるOTの参画における報告は少なく.今後この領域での実践の積み重ねが必要である.
【目的と方法】
 当施設では 2019 年にRSTが発足し,医師,呼吸療法認定士(OT・看護師),認定看護師,臨床工学技士で構成される計9名のメンバーで活動を継続している.ここでは,約5年間にわたるRST活動の成果について,24時間呼吸器管理にある一事例の経過を材料に整理し,OTの役割について検討する.尚,本報告は法人倫理委員会の承認を得ている.
【事例の経過】
1.事例紹介
 低酸素性脳症による重症心身障害(大島分類1),超重症児(者)スコア42点,症候性てんかん.身体の高度な拘縮変形と脆弱な身体が特徴的であり,不快時には顔面紅潮し心拍数の増加と換気量の低下が見られる.RST開始時5歳7か月以前の1年間で,肺炎による点滴加療が4回必要であった.本事例は,RST活動のモデルケースとなった.
2.RSTによる呼吸機能評価と主な取り組み
 2019年6月から2023年11月のRSTラウンドは,おおよそ月1回の頻度で,総数58回実施された.ここでの指摘項目や検討内容は,①動脈血液ガス分析検査結果の解釈や酸素化評価から呼吸器設定に関するもの9項目19種類,②排痰補助装置の適応に関するもの3項目11種類,③合併症の影響に関するもの2項目6種類,④分泌物貯留に関するもの2項目4種類,⑤ポジショニングの効果とリスク分析に関するもの3項目7種類,⑤回路の結露など環境に関するもの2項目4種類,⑥その他,であった.これらの情報をチームで共有し,体調の安定のための指針を導き,同時に体調不良につながる前兆の予測対応などに取り組んだ.この中で,腹臥位のポジショニングは即時効果として現れないが,24時間の姿勢管理の組み合わせで極めて重要であることも確認できた.
3.チームの中での作業療法士の取り組み
 上述のことに加え,事例の呼吸機能に影響する意識レベル,感覚感受性と筋緊張,感情表出反応を評価し,介助手技の工夫と高度変形に合わせたポジショニングを実施し,ラウンド時にその効果と適応をチームで確認する,また活動参加のための移動具の作製と適合,環境整備を積極的に行った.
【結果】
 事例の呼吸障害に関する多くの因子を解析していく中で,腹臥位の効果的な使用方法が確認され,生活に導入できた.またRSTメンバーからの安定的な呼吸器管理,ポジショニング,口腔ケア,またOTからの介助活動の伝達などで,病棟全体でのケアの質の向上に繋がっていった.この結果,RST導入後約3年間の体調不良による点滴加療が計3回に減少した.そして居室内に制限されていた年間の活動参加回数が,2倍以上になり,管理上難しかった居室外の活動参加も可能になった.就学後も体調を崩すことが少なく,登校できている.
【考察】
 本事例では,呼吸障害の重篤な重症心身障害児・者に対して,その障害像の理解と,呼吸器管理技術をRSTで共有していく有効性を示してくれたが,これらと同時に,呼吸ケアと安全安楽な施設生活と活動参加支援を結び付けていくOTの専門性を大いに発揮できる領域であることを確認できた.