第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-5] ポスター:発達障害 5

2024年11月9日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (大ホール)

[PI-5-7] 小児期肥満が大脳皮質運動野の発達およびリーチ動作に及ぼす影響

岩崎 也生子1, 大城 直美1, 生友 聖子2, 丹羽 正利1, 村松 憲3 (1.杏林大学 リハビリテーション学科作業療法学専攻, 2.東京医療学院大学 理学療法学専攻, 3.杏林大学 リハビリテーション学科理学療法学専攻)

【はじめに】小児期における肥満児の割合はこの数年で1.5倍に増加し, 約10%から15%の子どもに肥満が認められている.さらに作業療法対象となる発達障害児においては, 11.9から17.1%に肥満の合併が認められ, 作業療法介入をする上でも, 肥満そのものによる運動障害の影響を知る必要がある.小児期肥満には, 成人同様, 糖尿病や脂質異常症などの二型糖尿病を中心とする健康問題に加えて, 粗大運動と巧緻動作の運動発達障害が出現することが特徴として知られている.小児期肥満による運動発達障害は主に粗大運動障害と巧緻運動障害に分けられ, 粗大運動障害は主に過体重そのものに起因するとされているが, 「不器用さ」に表れる巧緻運動障害に至るメカニズムは明らかにされていない.本研究では, 小児期の肥満が大脳皮質運動野の前肢領域の発達と運動に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.
【方法】実験は, 6週齢と8週齢のZFDMラット(fa/fa;肥満群n=6)と(fa/+;対象群n=6)を用いて行った.ZFDMラットは, ヒトの小児期に相当する5週齢より体重増加が始まり, 10週齢前後で2型糖尿病を発症する.本研究では, 生後8週齢の肥満状態および糖尿病予備群において, 大脳皮質運動野の前肢領域における身体部位の表現を調べた.また, 前肢運動機能の評価には, 握力測定と巧緻運動を伴うリーチ運動を行った.リーチ運動は, 1週間ごとに握力とエサへのリーチ課題時の前肢の動きを測定し, リーチ成功率および, 11の構成要素と35のサブカテゴリからなるReaching movement rating score(Metzら, 2000)を用いた量的評価を実施した.組織学的指標として, 手関節背屈筋の横断切片から筋線維の短径を測定した.解析にはPrism10を用いて, 二元配置分散分析にて解析した.さらに, 腹腔内ブドウ糖負荷試験(IPGTT)を6週齢と8週齢で行い, 耐糖能を評価した.本研究は, 杏林大学動物実験委員会の倫理規定に従い実施した.
【結果】8週齢では肥満群が対象群より体重が重く(P<0.001), 空腹時血糖値は両者とも125mg/dl以下であったが, 8週齢のIPGTT後2時間の血糖値は肥満群の方が高い値を示した(P<0.001).皮質運動野の前肢面積は, 6週齢では両群間に差はなかったが(P=0.994), 8週齢では肥満群の方が非肥満群より小さかった(P=0.023).握力は生後5週では肥満群の方が強かったが, 生後6週以降は非肥満群の握力が逆転し, 8週では肥満群より強くなった(P<0.0001).リーチ動作の成功率は, 非肥満群が週齢を重ねるごとに上達していくのに対して, 肥満群では7週齢以降成長が停滞し8週齢では対象群に対し有意に低い結果となった(p<0.001).到達運動スコアでは合計得点および回外運動得点が肥満群の8週齢で低い得点となった(P<0.05).
【考察】齧歯類の大脳皮質前肢領域は出生後に拡大し,それに伴って前肢機能が発達することが知られている.本研究では, 肥満群では大脳皮質運動野の前肢領域の成長障害が生じるだけでなく,握力低下,リーチ運動時の前肢運動機能の低下が観察された.運動皮質の成長障害と前肢機能障害の発症が一致していることから, 肥満の小児に生じる上肢巧緻性障害には中枢神経系の異常が関与していることが示唆される.以上の結果は小児期の肥満は大脳皮質運動野の正常発達を妨げ,上肢の巧緻性に影響を及ぼす可能性を示すものである.小児期に作業療法介入を行う際には, 障害のみならず肥満の合併の有無にも留意し, 肥満そのものが巧緻運動障害を引き起こしている可能性を考慮する必要がある.