第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-6] ポスター:発達障害 6

2024年11月9日(土) 16:30 〜 17:30 ポスター会場 (大ホール)

[PI-6-2] 小児領域における作業療法士の家族支援の現状

加藤 里菜1, 佐野 美沙子2 (1.愛知厚生連知多厚生病院 リハビリテーション室, 2.名古屋大学 医学部保健学科作業療法学専攻)

【背景】
障害を抱えた方にとって家族の存在は大きいものである.とりわけ小児領域では養育者の存在が必要不可欠である.作業療法士はセラピィの中で子どもに介入するのみではなく,様々な形で療育者や家族の支援を行っている.しかし,小児領域における家族支援の現状について調べてみたところ作業療法を対象とする調査報告は少なかった.そこで,本研究において,作業療法士が臨床場面で実際にどのように家族支援を実施しているかを明らかにすることで,現状の課題の発見や後進の育成に繋げる知見を得たいと考えた.
【目的】
本研究では,小児領域における作業療法士の家族支援状況を明らかにすることを目的とし,具体的な研究疑問として,①作業療法場面でどのような支援が行われているのか,②支援の遂行度とその重要度に差はあるのか,③作業療法の家族支援の課題は何かを挙げ,調査を実施した.
【方法】
 Googleフォームを用い無記名アンケート調査を行った.対象は小児領域で勤務する作業療法士で同意が得られた者とした.アンケートは選択形式39問と自由記載形式2問の合計41問で,基本情報と家族支援に関する質問で構成されている.家族支援に関する項目は個々の質問に遂行度と重要度を4件法で回答してもらった.なお,本研究は,研究実施時の所属機関の生命倫理審査委員会に承認を得て実施した(21-609).
【結果】
 2022年5月~7月にアンケートを実施し,25件の回答が得られた.先行研を元に質問項目の支援内容によって以下の4つの要素に分類した;要素1「家族への直接的支援」,要素2「家族との信頼関係づくり」,要素3「疾患と治療の説明,障害特性に関する情報提供」,要素4「他職種連携による家族支援」.各質問項目の遂行度・重要度を1~4点で得点化し,要素ごとに得点を加算し統計分析を実施した.各要素の遂行度と重要度の差の有無についてKruskal-Wallis検定を実施し有意差が認められたため(p<0.05),Steel-Dwass検定で多重比較を行った.遂行度について,要素2の得点が他の要素よりも有意に高く,要素4は他の要素よりも有意に低い結果となった.また,各要素の遂行度と重要度の比較では,要素1,3,4において遂行度と重要度には優位な差があり,いずれも重要度に比べて遂行度が低かった.
【考察】
要素2「家族との信頼関係づくり」の遂行度が高い結果となり,作業療法の中で家族への直接的なアプローチの前段階として,まずは家族の障害受容を支え家族ができるだけ本音で語れる関係を築く必要があることが示された.家族の障害受容を支え信頼関係を築くことは作業療法遂行に重要な点であると考えられる.また,今回,要素2が他の要素の質問数よりも少なかったことが統計的な結果に影響している可能性も考えうる.要素1「家族との信頼関係づくり」,要素3「医学的・障害特性に関する情報提供」,要素4「他職種連携による家族支援」については重要と考えられているものの遂行しきれていない傾向にあったが,原因として,作業療法内での要因と社会的側面での要因があると考察した.作業療法内要因として,作業療法中の子どもの様子や作業療法内容の説明はできているものの,家庭に踏み込んだ直接的アプローチが不十分であることが挙げられる.これは,時間の無さや家族への負担を鑑みて踏み込めないことが原因であると考える.社会的側面要因として,時間の無さと多職種連携の不十分さが挙げられる.時間の無さは施設・作業療法が不足していることが原因として考えられる.多職種連携については他の領域でも課題に挙げられており,どのように推進していくかについては今後の検討事項であるといえる.