[PI-6-4] 知的障害を伴う自閉スペクトラム症における感覚処理に配慮した摂食動作の修正
【はじめに】知的障害者は幼少期から「かき込み」や「丸のみ」等の摂食動作に問題がみられ,加齢に伴い誤嚥のリスクが高まることが知られている(金子.2005).特に重度知的障害を伴う自閉スペクトラム症(ASD)においては摂食指導の受容が難しい(田村ら.2007).今回,重度知的障害を伴うASDの成人例に対して,感覚処理に着目した環境調整を行うことにより摂食動作の修正が認められた介入経験を報告する.発表に際し,当院の倫理委員会で許可は得ている(承認番号2023-015).
【事例A】50代男性.重度知的障害を伴うASDのため,幼少期より物の配置に対する固執,自傷他害を認めた.中学卒業後,障害者福祉施設に入所した.X年より異食が始まった.X+2年5月,電池とゴム手袋を飲み込み,開腹術が施行された.同年7月,創傷管理と居住環境調整を目的として当院に入院した.
【経過】病棟から食べ方がせわしなく対応に困っていると相談を受け,介入を開始した.自室から食事の席までは落ち着かない動きで突進した.施設での介助方法に倣い,一口量を皿にとりわけ提供されていた.摂食は仙骨座りで上肢を過剰に挙上させ,開口した口腔に押し込み(かき込み),3回のみ咀嚼し飲み込んでいた(丸のみ).食事中は頻回に離席した.SP感覚プロファイルは,全ての象限において高い~非常に高い数値を示した.高スコア項目をみると<常に動作に落ち着きはなく,時々関節を固定した不自然な姿勢がみられ,頻回に身体の一部をどこかにぶつける.塗り絵は枠から常にはみ出す.>と記されていた.摂食行為機能の修正を目標に,体性感覚の入力調整と視覚情報の整合性に配慮した環境調整を試みた.肋骨バンドを装着したところ,上肢の過剰な挙上は改善し,上唇で食物を取り込む動作が出現した.マッチング課題は落ち着いて取り組む様子に着目し,製氷皿に色合わせ課題とおかわりを要求する絵カードを組み合わせた自助具(以下,自助具)を使用したところ,咀嚼回数は12回に増加した.X+2年8月,退院のため直接介入を終了した.
【結果】肋骨バンドと自助具を使用することで,重度知的障害を伴うASD成人例にみられた「かき込み」や「丸のみ」等の摂食動作が修正された.
【考察】摂食動作は,自己と食物の関係性を理解して成し遂げられる行為である.肋骨バンドの装着により,体幹に体性感覚が入力され,頭頚部の分離運動が促通されるに伴い捕食や咀嚼しやすい自己になったと考えられる.ASDは,幼少期から予測性と可制御性が高いものを好む傾向が知られている(加藤ら.2021).本例において,自助具により摂食行動の予測性が高まった結果,上唇での取り込みが誘発され捕食の構えが出現し,さらには,次の一口までの動線が可視化できるため可制御性も高まり,咀嚼回数が増加した可能性がある.
【参考文献】
1)金子芳洋[監修]:第2節加齢に伴う知的障害者の摂食・嚥下障害の特徴,障害児者の摂食・嚥下・呼吸リハビリテーション,医歯薬出版,2005,pp.212-213.
2)田村文誉,西脇恵子,菊谷武,井上由香,児玉実穂,戸原雄,小沢章:成人重度知的障害者に対する摂食指導の受容に関する介入研究,日摂食嚥下リハ会誌,11:104-113,2007.
3)加藤寿宏・松島佳苗[編著]:エビデンスでひもとく発達障害作業療法,pp.64-68,CBR,2021.
【事例A】50代男性.重度知的障害を伴うASDのため,幼少期より物の配置に対する固執,自傷他害を認めた.中学卒業後,障害者福祉施設に入所した.X年より異食が始まった.X+2年5月,電池とゴム手袋を飲み込み,開腹術が施行された.同年7月,創傷管理と居住環境調整を目的として当院に入院した.
【経過】病棟から食べ方がせわしなく対応に困っていると相談を受け,介入を開始した.自室から食事の席までは落ち着かない動きで突進した.施設での介助方法に倣い,一口量を皿にとりわけ提供されていた.摂食は仙骨座りで上肢を過剰に挙上させ,開口した口腔に押し込み(かき込み),3回のみ咀嚼し飲み込んでいた(丸のみ).食事中は頻回に離席した.SP感覚プロファイルは,全ての象限において高い~非常に高い数値を示した.高スコア項目をみると<常に動作に落ち着きはなく,時々関節を固定した不自然な姿勢がみられ,頻回に身体の一部をどこかにぶつける.塗り絵は枠から常にはみ出す.>と記されていた.摂食行為機能の修正を目標に,体性感覚の入力調整と視覚情報の整合性に配慮した環境調整を試みた.肋骨バンドを装着したところ,上肢の過剰な挙上は改善し,上唇で食物を取り込む動作が出現した.マッチング課題は落ち着いて取り組む様子に着目し,製氷皿に色合わせ課題とおかわりを要求する絵カードを組み合わせた自助具(以下,自助具)を使用したところ,咀嚼回数は12回に増加した.X+2年8月,退院のため直接介入を終了した.
【結果】肋骨バンドと自助具を使用することで,重度知的障害を伴うASD成人例にみられた「かき込み」や「丸のみ」等の摂食動作が修正された.
【考察】摂食動作は,自己と食物の関係性を理解して成し遂げられる行為である.肋骨バンドの装着により,体幹に体性感覚が入力され,頭頚部の分離運動が促通されるに伴い捕食や咀嚼しやすい自己になったと考えられる.ASDは,幼少期から予測性と可制御性が高いものを好む傾向が知られている(加藤ら.2021).本例において,自助具により摂食行動の予測性が高まった結果,上唇での取り込みが誘発され捕食の構えが出現し,さらには,次の一口までの動線が可視化できるため可制御性も高まり,咀嚼回数が増加した可能性がある.
【参考文献】
1)金子芳洋[監修]:第2節加齢に伴う知的障害者の摂食・嚥下障害の特徴,障害児者の摂食・嚥下・呼吸リハビリテーション,医歯薬出版,2005,pp.212-213.
2)田村文誉,西脇恵子,菊谷武,井上由香,児玉実穂,戸原雄,小沢章:成人重度知的障害者に対する摂食指導の受容に関する介入研究,日摂食嚥下リハ会誌,11:104-113,2007.
3)加藤寿宏・松島佳苗[編著]:エビデンスでひもとく発達障害作業療法,pp.64-68,CBR,2021.