[PI-6-5] 保護観察における作業療法の地域貢献
作業療法士の資格をもつ保護司として何ができるか
【はじめに】
保護司は保護観察官と協働し,犯罪をした者や非行のある少年の指導監督と補導援護を行う.保護司の身分は非常勤の国家公務員とされるが,給与のない篤志家である.筆者は,令和元年に保護司を拝命し,数件ほど担当してきた.本発表では,そのうち2つの事例を紹介し,保護観察における作業療法(以下,OT)の貢献について私見を述べたい.なお,発表に際し事例対象者には説明と同意を得ているが,対象者の人権には十分な配慮が必要だと判断し,個人が特定できないよう内容を一部改変して報告する.
【保護司の活動】
保護司の役割は,保護観察,生活環境の調整,犯罪予防活動である.主な役割は保護観察であり,保護観察処分少年,少年院仮退院者,刑務所の仮釈放者,保護観察付執行猶予者に対し,保護観察官と協働した更生支援を行う.これら対象者の中には,一部障害を抱えた者も存在する.対象者との定期的な面接や家族相談,就労の斡旋など,生活全般の支援を行う.また,事件の内省プログラムやSST等も行う.保護司は最低でも月に1 度は保護観察官に支援の状況を報告し,保護観察期間の満了または良好措置がとられるまで継続する.
【事例】
A氏は無職の10 代男性である.無保険の自動車を無免許運転し対向車に衝突.被害者に怪我を負わせ保護観察処分となった.面接では事故に対し反省を口にするが表面的であった.また,感情を言葉にすることが苦手なようにも感じられた.筆者は,無免許乗車の経緯や事故時の感情を,1つ1つ単語として挙げてもらい紙に記した.感情をカテゴリーに分け,整理する作業を続けるうちに「どうしてあんなことをしたのか」「恥ずかしい」と内省を示した.また,被害弁済を抱えたA氏の経済状況は厳しく,生活が困窮していたことから,生活の維持と被害弁済の両立を目標に,月々の収入と支出のバランスを考え,就労にもつなげた.
B氏は20代男性の大学生である.大学生活で一人暮らしを始めた直後,盗撮を繰り返し,その行動がエスカレートして強制わいせつ事件を起こした.保護観察開始当初は他者を信じず,面接では無口だった.社会に対して妬む感情もあり人との交流を避けていた.筆者は,社会との交流の欠如が妬む感情や他者への迷惑行為に至ったのではないかと考え,最低限の社会交流ができる基盤を整えた.具体的には,同世代との交流の機会や就労による社会との接点の場を設けた.仕事の先輩について「あんなに優しい人がいることを始めて知った」と話し,社会交流の経験を重ねた結果,次第に大学生活も軌道に乗り始めた.
【考察】
事件には被害者が存在することから,対象者は内省し罪を償う意識を持つべきである.しかし,事件への直接的な指導以外にも,事件の背景を考え,対象者を包括的に捉えることが二次被害を減少させることにもつながる.今回は事件への内省に加え,事件に至る背景や対象者の強みにも着目し生活の再構築を図った.わが国の刑務所再入所者の約7割が再犯時に無職だと言われているが(法務省),彼らにとっては居場所づくりと社会参加は,今後の人生を決める大きな“作業”となる.
また,今回報告した事例は明らかな障害を抱えてはいない.しかし,OTは「日々の作業に困難が生じている,またはそれが予測される人」を対象とすることから(日本作業療法士協会),生きづらさを抱えた者の生活を再構築する手段の一つとしてOT的視点が活用できれば,保護観察の中でもOTは活用できる可能性はある.OTができることは,対象者にとって必要となる支援や環境を評価し,彼らとの信頼関係を築きながら,居場所づくりと社会参加に貢献できることだと考える.
保護司は保護観察官と協働し,犯罪をした者や非行のある少年の指導監督と補導援護を行う.保護司の身分は非常勤の国家公務員とされるが,給与のない篤志家である.筆者は,令和元年に保護司を拝命し,数件ほど担当してきた.本発表では,そのうち2つの事例を紹介し,保護観察における作業療法(以下,OT)の貢献について私見を述べたい.なお,発表に際し事例対象者には説明と同意を得ているが,対象者の人権には十分な配慮が必要だと判断し,個人が特定できないよう内容を一部改変して報告する.
【保護司の活動】
保護司の役割は,保護観察,生活環境の調整,犯罪予防活動である.主な役割は保護観察であり,保護観察処分少年,少年院仮退院者,刑務所の仮釈放者,保護観察付執行猶予者に対し,保護観察官と協働した更生支援を行う.これら対象者の中には,一部障害を抱えた者も存在する.対象者との定期的な面接や家族相談,就労の斡旋など,生活全般の支援を行う.また,事件の内省プログラムやSST等も行う.保護司は最低でも月に1 度は保護観察官に支援の状況を報告し,保護観察期間の満了または良好措置がとられるまで継続する.
【事例】
A氏は無職の10 代男性である.無保険の自動車を無免許運転し対向車に衝突.被害者に怪我を負わせ保護観察処分となった.面接では事故に対し反省を口にするが表面的であった.また,感情を言葉にすることが苦手なようにも感じられた.筆者は,無免許乗車の経緯や事故時の感情を,1つ1つ単語として挙げてもらい紙に記した.感情をカテゴリーに分け,整理する作業を続けるうちに「どうしてあんなことをしたのか」「恥ずかしい」と内省を示した.また,被害弁済を抱えたA氏の経済状況は厳しく,生活が困窮していたことから,生活の維持と被害弁済の両立を目標に,月々の収入と支出のバランスを考え,就労にもつなげた.
B氏は20代男性の大学生である.大学生活で一人暮らしを始めた直後,盗撮を繰り返し,その行動がエスカレートして強制わいせつ事件を起こした.保護観察開始当初は他者を信じず,面接では無口だった.社会に対して妬む感情もあり人との交流を避けていた.筆者は,社会との交流の欠如が妬む感情や他者への迷惑行為に至ったのではないかと考え,最低限の社会交流ができる基盤を整えた.具体的には,同世代との交流の機会や就労による社会との接点の場を設けた.仕事の先輩について「あんなに優しい人がいることを始めて知った」と話し,社会交流の経験を重ねた結果,次第に大学生活も軌道に乗り始めた.
【考察】
事件には被害者が存在することから,対象者は内省し罪を償う意識を持つべきである.しかし,事件への直接的な指導以外にも,事件の背景を考え,対象者を包括的に捉えることが二次被害を減少させることにもつながる.今回は事件への内省に加え,事件に至る背景や対象者の強みにも着目し生活の再構築を図った.わが国の刑務所再入所者の約7割が再犯時に無職だと言われているが(法務省),彼らにとっては居場所づくりと社会参加は,今後の人生を決める大きな“作業”となる.
また,今回報告した事例は明らかな障害を抱えてはいない.しかし,OTは「日々の作業に困難が生じている,またはそれが予測される人」を対象とすることから(日本作業療法士協会),生きづらさを抱えた者の生活を再構築する手段の一つとしてOT的視点が活用できれば,保護観察の中でもOTは活用できる可能性はある.OTができることは,対象者にとって必要となる支援や環境を評価し,彼らとの信頼関係を築きながら,居場所づくりと社会参加に貢献できることだと考える.