第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-8] ポスター:発達障害 8

2024年11月10日(日) 09:30 〜 10:30 ポスター会場 (大ホール)

[PI-8-3] 小児期逆境体験と感覚プロファイルスコアの関連性についての検討

鈴木 康也1, 八木 淳子2,3, 千葉 柊作4, 西村 行秀5 (1.岩手医科大学附属病院 リハビリテーション部, 2.岩手医科大学 精神神経科学講座, 3.岩手医科大学附属病院 児童精神科, 4.岩手医科大学附属病院 臨床心理室, 5.岩手医科大学 リハビリテーション医学講座)

はじめに
小児期逆境体験(Adverse Childhood Experiences:ACEs)が将来的な心身の疾患や社会適応の状態を悪化させ,暴力の連鎖や寿命の縮小につながることが実証された(Fellitti,et al.1998).これは幼少期の体験が長期にわたって影響をもたらすことを示すものである.
自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorders:ASD)や注意欠如多動症(Attention Deficit Hyperactivity Disorders:ADHD)などの神経発達症の児童支援において,作業療法士がアセスメントを行う症状の一つに感覚特異性がある.一方,ACEsがある児においても,感覚面に何らかの問題を引き起こす可能性が指摘されている(友田,2016).当院でも作業療法士が行うアセスメントにおいて発達特性だけではなく,ACEsがある児でも同様に何らかの感覚の問題が見いだされることが少なくない.
目的
ACEsを有する児の感覚面での問題を明らかにするために,ACEsスコアと感覚プロファイル(Sensory Profile: SP)のセクション別スコアの関連性を,発達特性を統制した上で探索的に検討した.
方法
令和元年9月から令和5年3月に当院児童精神科外来を受診し,SPでのアセスメントを行った238名のうち,ACEsスコアに欠損のない233名を対象とした.
使用したアセスメント項目は,外来で聴取したACEに関する9項目及びSPのセクション別スコア14項目であり,それらの変数を使用して統計分析を行った.なお本研究は,岩手医科大学研究倫理委員会の承認を得て実施した.
結果
ACEの累積数とSPの「視覚」と「情動反応や活動レベルに影響する視覚の調整機能(視覚調整)」で有意な相関が認められた.これら「視覚」「視覚調整」を従属変数,「ACEs」「ASD」「ADHD」「性別」「年齢」を独立変数として重回帰分析を行った結果,「視覚」に関してはACEsとの弱い正の関連,「視覚調整」は「ACEs」と「ADHD」との弱い正の関連がみられた.
考察
ここ数年,両親や親族など近親者からの虐待や,両親の離婚などの家庭機能不全が影響していると思われる事件等の報道を目にする機会が多くなってきている.作業療法士が関わる子どもは神経発達症である場合が多いかもしれないが,その中には発達特性による感覚特異性だけでなく,ACEsに関連する感覚特異性の問題を含む可能性があることが考えられた.発達特性を理解した関わりはもちろんであるが,トラウマインフォームドケアの視点でも関わることでよりよい作業療法の提供が可能になると考えられる.