第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-8] ポスター:発達障害 8

2024年11月10日(日) 09:30 〜 10:30 ポスター会場 (大ホール)

[PI-8-6] 発達障害者の障害特性と自動車運転能力との関連性について

高橋 恵一1, 菊地 翼1, 水戸部 一孝2 (1.秋田大学大学院医学系研究科 保健学専攻 作業療法学講座, 2.秋田大学大学院理工学研究科 数理・電気電子情報学専攻)

【はじめに】近年の自動車運転に関する研究では,高齢運転者の心身機能と事故原因についての検討や,脳損傷者等に対する自動車運転再開の支援のための評価方法について検討されており,認知・注意機能の低下や反応速度,下肢筋力の低下などが運転能力に影響することが明らかにされている.一方で,発達障害者の自動車運転については,発達障害傾向にある運転者は事故を起こしやすいことが先行研究で明らかになっているが,では,なぜ事故を起こすのか,発達障害のもつ障害特性からみた運転能力の特性については具体的に検証されておらず,その要因について未だ解明されていない.発達障害者の障害特性として, Ayres(1972)が提唱した感覚統合理論によれば,発達障害児・者は感覚刺激の処理過程の問題によって感覚刺激の反応のしかたに偏りがあり,これによって眼球運動や姿勢のコントロール,目と手の協調性,注意力などの能力の発達に影響を及ぼすと考えられている.したがって,そのような障害特性が自動車運転にも影響することが推測されるため,発達障害者の自動車運転評価および支援を行う際には高齢者や脳損傷者とは違った視点からアプローチを検討する必要があると考える.
よって本研究では,発達障害者の障害特性と運転能力との関連性を明らかにするために,その予備的研究として,ドライビングシミュレーター(Driving Simulator, 以下DS)を用いて発達障害者の運転能力を評価し,その結果と感覚刺激の処理過程の特徴や眼球運動との関連性について2名の対象者(発達障害者と定型発達者)の評価結果の比較を行ったのでここに報告する.なお本研究は秋田大学大学院医学系研究科・医学部倫理委員会の承認を受けて実施している.(承認番号3077)
する.【対象】対象者A:発達障害の診断をもつ30代男性.運転免許を保有し,12年の運転歴がある.人身事故歴はなし.対象者B:定型発達の20代男性.運転免許保有しているが運転歴はなし.【方法】実施した評価①DS(HONDAセーフティーナビ)の運転反応課題および運転操作課題②眼球運動評価NSUCO③眼球運動評価DEM④日本版青年・成人感覚プロファイル【結果】①DS運転反応検査では対象者Aのほうが概ね反応平均速度や操作の正確性が良い結果となった.一方で運転操作課題では対象者Bのほうが平均反応時間が概ね早い結果となった.②NSUCOでは対象者Aでは衝動性検査,滑動性検査ともに眼球運動に伴って時々わずかに頭の動きが認められた.対象者Bでは滑動性検査時に修正の動きが3~4回認められた.③DEMではTotal Vertical Time(垂直方向の検査の時間),Horizontal Adj.Time(調整された水平方向の検査の時間)ともに対象者Aの所要時間は対象者Bの2倍以上となった.④感覚プロファイルでは対象者Aは低登録が平均的,それ以外の感覚探求,感覚過敏,感覚回避では低い結果となった.対象者Bでは4つの象限すべてが平均的という結果であった.【考察】今回は予備的な研究であり,対象者2名のデータであり,しかも対象者間の年齢や運転経験に違いが大きいため,DSの各検査の結果が障害特性によるものか運転経験によるものかを判断することは難しい.ただし,DEMの所要時間の明らかな差や感覚プロファイルの閾値の違いが関連している可能性がある.また,本研究ではDS,NSUCO,DEM検査時にアイトラッカー(Tobii PROグラス3)で視線計測を行っているため,今後は今回の結果と注視時間等との関連性を検証していく予定である.