第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-9] ポスター:発達障害 9

2024年11月10日(日) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PI-9-1] 不器用さを有する児における紐結び動作の特徴

2症例の蝶結び動作の比較

中島 そのみ1, 中黒 麗子2, 池田 千紗3, 仙石 泰仁1 (1.札幌医科大学保健医療学部, 2.札樽・すがた医院, 3.北海道教育大学札幌校特別支援教育専攻)

【はじめに】手先の不器用さを有する発達障害児(以下,不器用児)が日常生活で困難さを示す活動の1つに,靴紐で蝶結びができないといった紐結び動作がある.筆者らは,作業療法における有効な指導方法を検討するため,健常成人と不器用児の蝶結び動作について,その工程の前半部分の「2本の紐を持ち交差する→一方の紐を捻って結ぶ」までを分析した.その結果,不器用児は,紐を固定するといった「操作しない方の手指を機能的に使用すること」,親指で紐を穴に押し込むといった「指1本で紐を操作すること」が難しい傾向にあることを報告してきた.しかし,蝶結び動作はそれ以降の工程がうまくできず,蝶結びが完成できないケースも見受けられる.そこで本研究では,蝶結びが可能な児と不完全な児の2症例を対象に,蝶結び動作の後半の工程を分析し,蝶結び動作が不完全な児の特徴を明らかにした.
【方法】対象は本研究への協力に同意が得られた右利きの不器用児2名で,蝶結びが最後までできる10歳の女児(以下,A児)と,蝶結びが完成に至らない9歳男児(以下,B児)とした.課題は普段行なっている蝶結び動作とし3施行実施した.対象児は椅子座位をとり,蝶結びには机上に固定された箱(縦24・横20cm,高さ3.5cmの箱の蓋)の中央2か所から出ている,太さ7mm,長さ36cmの2本の手芸用紐を使用した.動作中の様子は真上から手元が映るようにして動画で撮影した.
【分析方法】分析は撮影した蝶結びの動作の動画を使用し,坂本(1986)の蝶結びの工程を参考に実施した.本報告では後半の動作工程である,①片方の紐で輪差を作って保持する②もう片方の紐を輪差にかける③かけた紐を輪差になるように穴に押し込む④押し込んだ輪差とはじめの輪差をつまんで左右の引くの①~③までを分析対象とした.なお,輪差とは紐を輪の形にすることである.分析指標は,手指の使い方と紐の状態について記述的に記録し,A児との比較からB児の分析結果を中心に記載した.なお本研究は筆頭著者の所属先における倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】
①輪差をつくり保持する工程:両児とも拇指と示指で輪差を保持し,A児は結び目の根元をつまんでいるが,B児は根元から約5㎝の所をつまんでいた.
②もう片方の紐を輪差にかける工程:A児は結び目近くの紐を拇指と示指で持ち,輪差と輪差を保持する示指と拇指にきつく紐をかけていた.B児は紐の先端から約5㎝のところを拇指と示指で持ち,輪差にだけゆるく紐をかけおり,輪差が崩れて紐がかからないこともあった.また,輪差を保持する示指に紐がかかると中指に持ちかえたり示指に戻したり,持続した保持の不十分さがみられ,最後には輪差を反対の手に持ち替えていた.
③かけた紐を輪差になるように穴に押し込む工程:A児は輪差と輪差を保持する拇指と示指にかけた紐を引っ張り続け,紐にハリがある状態を保持したまま,穴に親指の腹で紐を押し込む動作がみられた.B児は輪差と輪差にかけた紐を引っ張らず,紐にハリのある状態が保持されないまま,紐をかけた手と反対の拇指と示指で紐を引っ張り出そうとし,違う紐を引っ張って形が崩れてしまった.
【考察】
 蝶結び動作が不完全な児は,操作しない方の手指を機能的に使用すること,親指1本で紐を操作することが難しかった.さらには,紐を持つ位置が適切でなかったり,紐を引っ張り続け,紐にハリを持たせながら操作することができておらず,手指間で異なった力の調整を行う上での困難さが動作に影響している可能性が明らかとなった.これらの視点をどのように指導に反映していくか,さらに検討する必要がある.