[PI-9-6] 物投げが大きな支援課題となっていた脳性片麻痺児に対するBimanual trainingを参考にした療育介入
【はじめに】脳性片麻痺(HCP)児は両手作業に困難が生じ,活動への参加やQOLにも強く影響を与える(Cacioppoら,2023).両手機能に着目したBimanual training(BiT)は,HCP児の有効な治療介入として推奨されているが(Novak,2013),本邦ではBiTに関する報告は少ない.今回,他者との関係作りを阻害する要因として問題行動(物投げ)が見られ,大きな支援課題となっていたHCP児に対し,BiTを参考に両手動作に着目した対人的な遊びの療育を行った.その結果,両上肢で新たな運動を獲得し,物投げ行動の減少やコミュニケーションの増加へと繋がったため報告する.なお,本報告は本児の母親に書面にて同意を得ている.
【事例紹介】5歳8ヶ月(X年4月時点)の脳性右片麻痺を有する男児.GMFCSレベルⅡ,MACSレベルⅤ,CFCSレベルⅡ,KIDS(Type-T)の発達年齢は1歳8ヶ月相当(発達指数29)だった.言語理解は2語文レベルで,要求や拒否などの意思表示は非麻痺側上肢で物を投げて表現することが多く見られた.ままごと遊びにおいて,大人に玩具を「どうぞ」と手渡すことはできるが,麻痺側上肢の参加は見られず,両手の活動はほぼ皆無であった.本児は,当事業所を週1日利用し,約3時間の集団療育と,その中で30分間の個別療育を受けていた.介入以前も,同形態で療育を行っていたが,両手動作への介入はしておらず,そこでは物投げ行動の軽減には至らなかった.
【方法】作業療法士(OTR)による介入は評価期間を含めX年4月〜X年12月にかけて実施した.介入前後の評価として,COPM,VinelandⅡ,PSI-SFを用いた.COPMでは母親との面談で「活動の中で麻痺側上肢を使う場面が少し見られる」を目標設定とした.個別療育のねらいは,麻痺側上肢に興味を持ち,遊びの中で両上肢の動作を引き出すことであった.しかし,玩具を使った両手課題では,殆ど非麻痺側上肢で玩具を投げてしまい,麻痺側上肢はほぼ使おうとしなかった.そこで,本児が興味のある遊びの選択や,麻痺側上肢に興味が行く設定を行い,手を見たり触れたり動かしたりする経験を得られるようにした.療育内容は①OTRが両手の甲に描いた絵を使ったごっこ遊び(母親了承の下実施),②非麻痺側上肢に貼った虫のカードを麻痺側上肢で外す虫取り遊び,③遊びの中でOTRとタッチ練習,④お絵描き前の両手ペンキャップ外し,⑤歌を通じた拍手遊びを実施した.
【結果】COPMは遂行度2→3,満足度3→4へと向上し,Vineland-Ⅱは受容言語が22→26,遊びと余暇が22→23に向上した.PSI-SFは子ども側面27→25,親側面26→25に減少した.行動上の変化では,非麻痺側上肢で麻痺側上肢を触るようになり,甲に描いた絵を合わせて遊ぶ場面が見られた.集団療育では,いただきますのポーズやタオルで両手を拭き取る行動が見られ,同時に物を投げる頻度も減少していった.母親からは「何回もペンのキャップを外す練習をしていた」「生活発表会で手拍子を行っていた」「兄弟と遊べるようになってきた」などの発言が聞かれた.
【考察】BiTを参考に両手動作に着目した対人的な遊びへの療育介入は,新たな両手の運動獲得や物投げの減少,友だちや家族とのコミュニケーション向上に繋がった.セルフケアや遊びなど,年齢相応の日常生活を送ることが困難なHCP児において,両手技能の発達を促進することは遊び,ADLなどの活動への参加に非常に重要とされている(Osei,2021).今回,両手を使った遊びを通して社会的コミュニケーション表現の幅が増えた結果,物投げが減少したと考えられる.本事例より,HCP児への療育介入では,両手動作に着目した社会的介入が本人や家族の総合的な支援に繋がることが示唆された.
【事例紹介】5歳8ヶ月(X年4月時点)の脳性右片麻痺を有する男児.GMFCSレベルⅡ,MACSレベルⅤ,CFCSレベルⅡ,KIDS(Type-T)の発達年齢は1歳8ヶ月相当(発達指数29)だった.言語理解は2語文レベルで,要求や拒否などの意思表示は非麻痺側上肢で物を投げて表現することが多く見られた.ままごと遊びにおいて,大人に玩具を「どうぞ」と手渡すことはできるが,麻痺側上肢の参加は見られず,両手の活動はほぼ皆無であった.本児は,当事業所を週1日利用し,約3時間の集団療育と,その中で30分間の個別療育を受けていた.介入以前も,同形態で療育を行っていたが,両手動作への介入はしておらず,そこでは物投げ行動の軽減には至らなかった.
【方法】作業療法士(OTR)による介入は評価期間を含めX年4月〜X年12月にかけて実施した.介入前後の評価として,COPM,VinelandⅡ,PSI-SFを用いた.COPMでは母親との面談で「活動の中で麻痺側上肢を使う場面が少し見られる」を目標設定とした.個別療育のねらいは,麻痺側上肢に興味を持ち,遊びの中で両上肢の動作を引き出すことであった.しかし,玩具を使った両手課題では,殆ど非麻痺側上肢で玩具を投げてしまい,麻痺側上肢はほぼ使おうとしなかった.そこで,本児が興味のある遊びの選択や,麻痺側上肢に興味が行く設定を行い,手を見たり触れたり動かしたりする経験を得られるようにした.療育内容は①OTRが両手の甲に描いた絵を使ったごっこ遊び(母親了承の下実施),②非麻痺側上肢に貼った虫のカードを麻痺側上肢で外す虫取り遊び,③遊びの中でOTRとタッチ練習,④お絵描き前の両手ペンキャップ外し,⑤歌を通じた拍手遊びを実施した.
【結果】COPMは遂行度2→3,満足度3→4へと向上し,Vineland-Ⅱは受容言語が22→26,遊びと余暇が22→23に向上した.PSI-SFは子ども側面27→25,親側面26→25に減少した.行動上の変化では,非麻痺側上肢で麻痺側上肢を触るようになり,甲に描いた絵を合わせて遊ぶ場面が見られた.集団療育では,いただきますのポーズやタオルで両手を拭き取る行動が見られ,同時に物を投げる頻度も減少していった.母親からは「何回もペンのキャップを外す練習をしていた」「生活発表会で手拍子を行っていた」「兄弟と遊べるようになってきた」などの発言が聞かれた.
【考察】BiTを参考に両手動作に着目した対人的な遊びへの療育介入は,新たな両手の運動獲得や物投げの減少,友だちや家族とのコミュニケーション向上に繋がった.セルフケアや遊びなど,年齢相応の日常生活を送ることが困難なHCP児において,両手技能の発達を促進することは遊び,ADLなどの活動への参加に非常に重要とされている(Osei,2021).今回,両手を使った遊びを通して社会的コミュニケーション表現の幅が増えた結果,物投げが減少したと考えられる.本事例より,HCP児への療育介入では,両手動作に着目した社会的介入が本人や家族の総合的な支援に繋がることが示唆された.