第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-3] ポスター:高齢期 3 

2024年11月9日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (大ホール)

[PJ-3-1] アクティブなライフスタイルを実現するための取り組み

大神子珈琲店の誕生

佐伯 浩佳, 細川 友和, 鶴熊 洋樹, 郡 昴 (リハビリテーション大神子病院)

【はじめに】
新型コロナウイルス感染症が流行して以来,感染対策として人が集まることが制限され,様々な院内行事が中止となった.病棟ホールを使用しての食事は最少人数となり,病室で1日の大半を過ごす患者が増えた.また,感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律上の位置づけが5類感染症に移行された後も,患者の行動範囲や患者同士の交流の減少が見られていたが,感染対策が常態化したために病棟生活の狭小化に気がつく職員も少なかった.そこで,患者の主体性の獲得,交流の機会作りを目的に作業療法士(以下,「OT」という.)主導の下,新たにコーヒーサービス(以下,「大神子珈琲店」という.)を開始したところ,患者の病棟生活における満足度の向上,行動変容,ソーシャルキャピタルの構築が見られたため報告する.なお,本研究は患者が特定されないよう配慮した.
【概要】
令和5年10月より週1回,リハビリテーション室(以下,「リハ室」という.)で大神子珈琲店を開店.感染対策として十分な換気を行っている.本格的であることを重視し,地元の老舗の喫茶店のコーヒー豆を使用し,豆をミルで挽く,ドリップする,陶器のコーヒーカップに注ぐ,食器洗い,片付けまでの一連の作業を患者に行っていただく. 元旦にはぜんざいを作るなど,季節感も演出した.
【対象と方法】
大神子珈琲店に参加した患者に対し,満足度,良かった点等についてアンケート調査を実施した.調査期間中に複数回参加した患者に関しては,アンケートが重複しないようにした.また,行動変容については患者の担当OTが観察を行った.
【結果】
アンケートでは,9割が満足と回答し,人生で輝いていた頃を思い出した,病棟生活に楽しみができた,訓練に対して意欲が出た,新しい友達ができた等の回答が得られた.観察からは豆を挽く際にミルを固定する人,ハンドルを回す人等,患者同士で役割分担を行う様子やコーヒーカップを洗ってあげる等の協力しあう行動がみられた.入院前に施設入所されていた患者では,食器を洗う活動自体が数年ぶりという方もおられた.病棟生活では,患者同士が挨拶をしたり,会話をする機会が増えた.また,訓練の時間を逆算してトイレを済ませる,身だしなみを整える等の行動変容や,リハ室まで自ら来られる等の能動的変化がみられた.それに伴い,機能的自立度評価法(以下,「FIM」という.)では整容・移乗・トイレ・移動項目において点数の向上を認めた.認知症による記憶力の低下がみられる患者のご家族から,退院後も大神子珈琲店でコーヒーを飲めた事を喜んで話していると手紙をいただくこともあった.
【考察】
新型コロナウイルス感染症により感染対策として人と人との交流が制限された期間が長く,病棟生活の狭小化,行動範囲の減少,患者同士の交流の減少がみられていた.大神子珈琲店を開店し,憩いの時間,場所を提供することで,受動的な生活から能動的な生活へと変化し, OTと患者間だけでなく,患者同士の交流の機会の増加や助け合い等の互助がみられるようになった.また地元の老舗の有名な喫茶店の豆を使い,コーヒーカップ等も本格的なものを提供することで香りやカップが出す音等が五感を刺激し,患者が喫茶店等によく行っていた頃を懐かしみ,病棟生活に楽しみが生まれたことが意欲の向上や主体的行動に結びつき,結果としてFIMの点数の向上にも繋がったと考える.認知症による記憶力の低下がみられる患者でも,嬉しさや喜びなどの快の感情が記憶と深く結びつき,記憶に定着すると実感した.今後も感染対策を行いながら,季節の行事も取り入れ,入院直後から能動的な生活を送れるように多職種共同で考えていきたい.