第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-3] ポスター:高齢期 3 

2024年11月9日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (大ホール)

[PJ-3-5] 高齢者を対象とした急性期作業療法における目標設定ツールを用いた実践と活用方法

文献レビューによる検討

本田 拓也1,2, 谷村 厚子3, 山田 大翔1 (1.東京都健康長寿医療センター リハビリテーション科, 2.東京都立大学 人間健康科学研究科 作業療法科学域 客員研究員, 3.東京都立大学 人間健康科学研究科 作業療法科学域)

【はじめに】近年,患者中心の作業療法の普及により,目標設定の重要性に焦点が当てられている.患者との目標の共有と設定は,健康関連QOLや自己効力感を向上する(Levack at al.2015)とされている.一方で,目標設定を阻害する要因に関する報告(Plant at al.2016)では,スタッフと患者の視点の不一致や認知機能低下等が挙げられている.それに加え,筆者の臨床においても,急性期で,状況理解に乏しい高齢者と協働的に目標設定を行うことが困難であった経験がある.目標設定を手助けする方法として,目標設定ツールの活用が推奨されている.作業選択意思決定支援ソフト(以下,ADOC)を急性期作業療法で用いた研究(石川ら.2021)では,退院に至るまでの経過の中で平均72.8歳となる対象者の約7割に目標設定が可能であったと報告されており,目標設定ツール活用の有効性が示されている.より目標設定が困難になると思われる高齢者を対象とする場合,目標設定ツールとその活用方法の検討が必要であると推測されるが,高齢者を対象とした急性期作業療法において,目標設定ツールを用いた実践の文献レビューやツールの活用方法を検討した研究は少ない.
【目的】本研究の目的は,高齢者を対象とした身体障害領域の急性期作業療法において目標設定ツールを用いた実践の文献レビューを行い,その対象者の特徴やツールの活用方法について示唆を得ることとする.
【方法】目標設定ツールの選定は先行文献(Okita at al.2024)をもとに行い,文献レビューの検索ワードとして設定した.目標設定ツールの選定基準は特定の対象疾患がないこと,対象に高齢者が含まれること,目標設定ツールの日本語訳があること,協働的に目標設定を行うものであることとした.なお,目標の質やセラピストと対象者の認識の差異を確かめる目的で使用される目標設定ツールは除外した.検索エンジンは医中誌Webを使用し,検索は「原著」,「高齢者」と設定した上で行い,検索ワードは「作業療法」と「ADOC」,「カナダ作業遂行測定(以下,COPM)」「目標達成スケール(以下,GAS)」とした.文献の採択基準は目標設定ツールを活用した作業療法実践が具体的に記述されているものとした.
【結果と考察】検索結果から30件の文献が抽出され,そのうち17件が採択された.採択された文献は2001年から2023年に掲載されたもので,その目標設定ツールと文献数はCOPM 12件,ADOC 4件,COPMとADOCの併用が1件で,GASは0件であった.対象となった疾患は脳血管疾患,がん,整形疾患,心疾患であった.
採択された文献には,不安感が強い中で患者を目標設定に参加させることが難しいと判断し,目標設定ツール使用のタイミングを計った報告(上田ほか.2023)があった.石川ら(2021)は,目標設定が困難となる理由として「能力の認識不足」や「見通しの希薄」等を挙げている.急性期で高齢者を対象とする場合,病気や怪我による心身の変化を認識し,状況を理解するまでに時間がかかることも少なくない.そのため,特に高齢者の急性期作業療法で目標設定ツールを活用する際には,状況や理解度に合わせてさらに柔軟に対応する必要があると考える.本文献レビューの検索ワードとした目標設定ツールは一部に限られており,また生活行為向上マネジメントといった目標設定ツールとして活用可能と思われるものが含まれなかったため,今後は国外文献や国内独自のツールを活用した実践の文献も含めて検討を行う必要があると考える.