[PJ-3-6] 作業的well-being
地域在住超高齢者は作業的生活でどのようにwell-beingを経験しているのか
【はじめに】作業的well-beingは,日常生活を構成する作業へ参加することで,満足のいく生活を送っていると感じられる状態である(Saraswati et al, 2019).我が国では超高齢者の増加が予測されているが,超高齢者は前・後期高齢者に比べ,認知・身体的機能が低下し易く,これにより自立性やコントロール感,アイデンティティの喪失が生じやすいと言われている(Baltes et al,2003).こうした中,心身面に留まらず,作業的側面からも超高齢者のwell-beingの経験を理解し,支援策を検討することが喫緊の課題となっている.以上を踏まえ,本研究は,地域在住超高齢者のwell-beingに関連する日常的な作業経験を当事者の視点から質的研究により理解することを目的とした.
【方法】参加者は,北日本A市内に在住する健常な超高齢者で,選定基準は①85歳以上の男女,②日常生活自立(「障害高齢者の日常生活自立度」自立からA1ランク程度),③外出頻度週1回以上,とした.参加者はA市内2か所の老人福祉センターで募集し,便宜的サンプリングを用いた.データ収集は,2022年8月から同年9月に,基本属性と1日の時間使用を調査した後,1人1回40分の半構造化面接を実施した.データ分析は,Step for Coding and Theorization(以下,SCAT)を応用し,SCATに沿って全参加者の理論記述を生成した後,類似する内容をまとめてテーマを生成した.本研究は筆頭著者の所属機関倫理委員会の承認を受け,参加者に研究目的と倫理的配慮を説明し同意を得た後に実施した.
【結果】参加者は6名(平均年齢88.5±2.07歳,男女各3名)であった.分析の結果, 68の理論記述と3つのテーマ(以下,『 』内に表示)が生成された.参加者は,老化の進み方がこれまでの
年齢とは異なる『作業する自己を脅かす老い』に直面していた.「ゆっくり歩いていたらどんどん衰えていく」として衰えの進行が一段と速く,参加者は必要な作業ができずに自分が迷惑をかける存在になるのを一層の現実味をもって懸念していた.こうした中,『作業を通して満たされる思い』として衰えを遅らせている手ごたえ,他者とのつながり,他者の役に立っていると思える作業経験や,継続して自己が大切にしてきた作業経験を得られることは,衰えによる懸念を和らげ,参加者に「楽しみ」といった肯定的な感情をもたらしていた.さらに参加者は,これらの作業経験が無理なくできる日常生活を構築していた.その際,参加者は重要他者と共に行う作業をルーティン化し,「疲れて出来ないから孫に」と作業量の調整や負担となる責任を他者に譲渡し,「太極拳の後は買物したり.毎日決まってないです」と柔軟に作業を選択する『自然に続けられる作業参加』の工夫をしていた.
【考察】人は自分の欲求を満たす作業と結びつき,満足のいく仕方で日常生活を構成する時に作業的なwell-beingを経験する(Doble et al,2008).本研究では作業を通して自己の状態の維持や他者とつながるニーズを満たすことに加え,自己の一貫性の感覚(Nilsson et al, 2012)に関わる経験がwell-beingの認識に重要であることが示された.さらに,参加者はこれまで培った環境との調和した関係により,程よいペースと負荷量で,必要な作業をする機会と促しが巡ってくる日常生活を築いていたことが見出された.本研究の参加者は自己に必要な作業経験を理解した上で,自然の流れに任せる高齢期の心理特性(増井,2016)が反映された作業パターンを構築することにより,肯定的な感情を得ていた可能性がある.本研究の知見は,超高齢者に加え,前・後期高齢者のwell-beingを支援する作業療法に示唆を与えると思われる.
【方法】参加者は,北日本A市内に在住する健常な超高齢者で,選定基準は①85歳以上の男女,②日常生活自立(「障害高齢者の日常生活自立度」自立からA1ランク程度),③外出頻度週1回以上,とした.参加者はA市内2か所の老人福祉センターで募集し,便宜的サンプリングを用いた.データ収集は,2022年8月から同年9月に,基本属性と1日の時間使用を調査した後,1人1回40分の半構造化面接を実施した.データ分析は,Step for Coding and Theorization(以下,SCAT)を応用し,SCATに沿って全参加者の理論記述を生成した後,類似する内容をまとめてテーマを生成した.本研究は筆頭著者の所属機関倫理委員会の承認を受け,参加者に研究目的と倫理的配慮を説明し同意を得た後に実施した.
【結果】参加者は6名(平均年齢88.5±2.07歳,男女各3名)であった.分析の結果, 68の理論記述と3つのテーマ(以下,『 』内に表示)が生成された.参加者は,老化の進み方がこれまでの
年齢とは異なる『作業する自己を脅かす老い』に直面していた.「ゆっくり歩いていたらどんどん衰えていく」として衰えの進行が一段と速く,参加者は必要な作業ができずに自分が迷惑をかける存在になるのを一層の現実味をもって懸念していた.こうした中,『作業を通して満たされる思い』として衰えを遅らせている手ごたえ,他者とのつながり,他者の役に立っていると思える作業経験や,継続して自己が大切にしてきた作業経験を得られることは,衰えによる懸念を和らげ,参加者に「楽しみ」といった肯定的な感情をもたらしていた.さらに参加者は,これらの作業経験が無理なくできる日常生活を構築していた.その際,参加者は重要他者と共に行う作業をルーティン化し,「疲れて出来ないから孫に」と作業量の調整や負担となる責任を他者に譲渡し,「太極拳の後は買物したり.毎日決まってないです」と柔軟に作業を選択する『自然に続けられる作業参加』の工夫をしていた.
【考察】人は自分の欲求を満たす作業と結びつき,満足のいく仕方で日常生活を構成する時に作業的なwell-beingを経験する(Doble et al,2008).本研究では作業を通して自己の状態の維持や他者とつながるニーズを満たすことに加え,自己の一貫性の感覚(Nilsson et al, 2012)に関わる経験がwell-beingの認識に重要であることが示された.さらに,参加者はこれまで培った環境との調和した関係により,程よいペースと負荷量で,必要な作業をする機会と促しが巡ってくる日常生活を築いていたことが見出された.本研究の参加者は自己に必要な作業経験を理解した上で,自然の流れに任せる高齢期の心理特性(増井,2016)が反映された作業パターンを構築することにより,肯定的な感情を得ていた可能性がある.本研究の知見は,超高齢者に加え,前・後期高齢者のwell-beingを支援する作業療法に示唆を与えると思われる.