第58回日本作業療法学会

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ポスター

高齢期

[PJ-4] ポスター:高齢期 4

Sat. Nov 9, 2024 2:30 PM - 3:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PJ-4-3] 作業バランスがとれた健康高齢者における生活満足度と作業の価値・楽しみとの関係

高木 大輔 (東北文化学園大学医療福祉学部)

【はじめに】
 作業療法における作業バランスを評価する方法の一つに作業バランス自己診断(小林法一,2004)がある.これは日頃行っている作業を義務と願望の観点から自己評価させ,それぞれの作業の構成比率を算出する.また,作業の価値や楽しみも同時に評価することで,自身の生活を深く理解することが可能となる.作業バランスは義務でも願望でもない作業(以下,無意味作業)の割合が20%を超えると生活満足度(以下,満足度)が低くなる傾向にあり,生活の見直しが必要とされる.一方,無意味作業が多くても満足度が高い場合や,逆に無意味作業が少なくても満足度は低い場合があることも報告され,検討すべき課題となっている.今回,地域在住高齢者に対して作業バランスを調査し,無意味作業が少なかった者の検討を行った.そして,満足度と作業バランスに加え,作業の価値や楽しみとの関係についても明らかにすることを目的とした.
【方 法】
 対象は2023年度に開催した地域在住高齢者向けの講演会参加者に対し協力を依頼した.作業バランスの測定には作業バランス自己診断を用いた.作業は義務かつ願望作業(以下,義務願望作業),義務作業,願望作業,無意味作業の4パターンから自己評価させたのち,列挙した作業数の合計に対する割合をパターンごとに算出した.そして,無意味作業の割合が20%未満だった参加者を抽出した.満足度は満足度100点法(小林法一他,2002)を用いて測定し,平均値よりも高い群(以下,高値群)と低い群(以下,低値群)に分けたうえで,各群における作業バランスを比較した.また,価値の高い作業と楽しみにしている作業の割合も算出し両群で比較した.統計解析について2群の比較にはMann-WhitneyのU検定を,関係の分析にはSpearmanの順位相関係数を,名義尺度の分析にはFisherの正確確率法を用いた.有意水準は5%とした.なお,参加者には予め調査の趣旨と倫理的配慮について説明し,協力の同意を得た参加者からデータを回収した.
【結 果】
 分析対象者は52名(平均70.7歳)だった.作業バランスは,義務願望作業61%,義務作業19%,願望作業12%,無意味作業8%だった.満足度の平均値(±標準偏差)は71.9±13.4(中央値:70.0)点だった.また,満足度と価値の高い作業の間に弱い正の相関(rs=0.31)が,満足度と楽しみにしている作業の間に中程度の正の相関(rs=0.45)が有意だった.そこで,満足度の平均値を基に2群に分けたところ,高値群(n=22)の満足度は84.1±7.0(80.0)点,低値群(n=30)の満足度は62.9±9.3(67.5)点であり有意差があった.また,作業バランスは高値群で義務願望作業73%,義務作業12%,願望作業11%,無意味作業4%,低値群で義務願望作業57%,義務作業24%,願望作業13%,無意味作業6%であり,群と作業バランスに関連は見られなかった.一方,価値の高い作業の割合は高値群77.5±17.1(82.1),低値群69.4±15.0(71.7),楽しみにしている作業の割合は高値群68.0±15.4(70.1),低値群48.5±17.3(47.9)で共に有意差があった.
【考察・まとめ】
 対象者の作業バランスは一般に生活の見直しが不要と判断される状況だったが満足度には幅があり,作業に対する価値や楽しみとの関係もみられた.また,満足度の高低と作業バランスに関連は見られなかった一方で,価値の高い作業や楽しみにしている作業の割合には差があった.以上より,作業バランスがとれている場合でも価値の高い作業や楽しみにしている作業が少ない場合に満足度は低下する可能性があり,作業バランスを解釈する上で留意すべき点と考えられた.