第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-4] ポスター:高齢期 4

2024年11月9日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (大ホール)

[PJ-4-4] 作業選択におけるAssessment of quality of activities(A-QOA)の利用の有効性

緑内障の影響で趣味を行えなくなっていた事例

米山 智彦1, 小川 真寛2, 脇野 俊貴3, 白井 はる奈4 (1.新潟県立県立吉田病院 医療法人愛広会運営移行準備室, 2.神戸学院大学 総合リハビリテーション学部 作業療法学科, 3.医療法人愛広会 とようら訪問看護ステーション, 4.佛教大学 保健医療技術学部 作業療法学科)

【はじめに】今回,緑内障の影響で趣味を行えなくなっていたクライエント(以下,CL)対して,Assessment of quality of activities(以下,A-QOA)を用いて作業を評価し,残存機能に合わせて作業形態を調整したことで,作業の再開に繋がった.A-QOAを用いて活動時の反応を評価することは,作業選択において有効な手段となりうると考えられたため,報告する.今回の発表に際し,CLと御家族に同意を得た.
【事例紹介】CLは90代女性で,息子と2人暮らしであった.趣味はガーデニングや音楽鑑賞であった.緑内障が進行し,自宅内は記憶を頼りに歩行器歩行や,日常生活動作(以下,ADL)は自立していたものの,趣味を行えなくなっていた.入院前に体調を崩し,ADLは全介助となっていた.X-1日,腹部膨満を認め,A院を受診した.一度帰宅するも,X日に入院となった.翌日,リハビリテーションが開始となった.
【初期評価】CLは視力低下の影響で,頻繁にベッド環境を手で探り確認し,口頭で物品の確認の必要があった.食事は青色の滑り止めマットを敷き,色のコントラストを付けることで摂取が可能であったが,他のADLは全介助だった.難聴を呈し,左耳への声かけを要した.作業療法目標は,「CLに適した環境調整を実施し,ポータブルトイレ(以下,P/T)の使用が自立し,自宅退院する」とした.また,「実施可能な作業形態を模索し,退院後に作業を再開する」ことも目標とした.
【経過】(1-2週)認識可能な色を評価し,赤,緑,黄色は判別できなかった.明るさによっても見え方は異なった.識別可能な青色で手すりにマーキングを実施し,移乗動作やP/Tの使用は口頭指示で可能となった.歩行器歩行で病棟窓前に行き,青空が見えたことを喜ばれ,以後,空を見にいくことが日課となった.(3-6週)ベッドサイドでのADLは安定し,CLが行える作業を検討した.作業歴より,「外気浴」と「音楽鑑賞」を選択肢し,A-QOAで評価した.病院敷地内の「外気浴」のProbit値(活動の質の指標)は3.15(良い状態)であった.花壇の橙色,黄色や紫色の花は認識できたが,木や葉の色は黒色に見え,認識ができなかった.「音楽鑑賞」はクラッシックを視聴し,Probit値は2.74(平均的な状態)であった.イヤホン使用時,左耳のみより両耳の方が聴こえ易かった.高音の音色は聴こえなかった.両作業共に残存機能を利用できる環境調整が不十分と考えられた.そこで,「外気浴」は移動範囲を限定し,花壇で花を手で触れて,咲き具合を確認できるようにした.Probit値は3.71(良い状態)に向上した.「音楽鑑賞」は曲をビートルズに変更した.曲が途切れて聴こえることはなくなり,Probit値は3.71(良い状態)に向上した.その後,ジャズ等も選択肢に加わった.病室でも花を感じられる様に壁に菖蒲の写真を掲示し,CLは涙を流して喜んだ.(7-8週)病室-トイレ間の位置関係を記憶し,見守りで病棟トイレの使用が可能となった.一方,家族への思いがつのり,夜間に不穏になることが増えた.そこで,「外気浴」「音楽鑑賞」を朝食後に実施し,精神面の安定を図った.その後,家族や介護サービス担当者に,CLの状態を伝達し,退院となった.退院時には,常に花を感じられるように菖蒲の造花を歩行器に設置した.
【結果】ベッドサイドのADLは自立し,自宅退院となった.退院後,音楽の視聴を再開され,落語も楽しんでいる.また,歩行器に設置した造花を変更する等,家族の支援を受けながら生活を継続している.
【考察】感覚機能が低下し,自己の周辺の環境の把握が困難なCLの活動時の反応をA-QOAで数値化することで,適した作業形態への変更ポイントを絞り込むことができた.また,作業の効果をProbit値として算出することは,提供した作業がCLにとって良いものであるかの判断の一助になると考えられる.